空き家問題とひとり親家庭の居住支援問題をまとめて解消
【NPO法人リトルワンズ様】
全国的に深刻な社会問題となっているのが「空き家問題」。
年々空き家の数は増えて、自治体や企業がいよいよ真剣に取り組もうという動きが増えてきました。
しかし取り組みの多くは
- 「空き家」の建て替え(資産組み換え)
- 空き家バンクの活用
など、空き家物件への応急処置的な対応です。
オーナーの方にとっては「空き家問題」はお金に関係することなので当然のことでもあります。
ただ空き家などの不動産の活用は本当に経済面だけで考えるものなのでしょうか…。
今回はNPO法人リトルワンズの代表 小山氏に取材をさせていただきました。
同法人では、企業と行政と連携して「空き家」を活用したシングルママと子供たちへの居住支援を提供しています。
内容は実に実践的かつ刷新的。
「空き家活用」に新しい可能性を見出しています。
NPO法人リトルワンズとは?
設立10年を迎える母子・父子家庭支援の先進団体
NPO法人リトルワンズは、代表の小山氏によって設立。
2008年にNPO法人として活動を広げ、ワンペアレントファミリー(母子・父子家庭)の生活のすべてに関わっています。
2012年から住宅支援を開始し、日本で初めて「空き家」を活用したひとり親家庭の居住支援モデルを構築しました。
2017年に国土交通省「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」(※)に提案・採択され、ワンペアレントファミリーを対象とした住宅支援のマニュアルとスタンダードを作成。
企業と行政(地方自治体や居住支援協議会)と連携し、ダイナミックな発想と機動力で住宅支援をリードしています。
それぞれの強みを生かすコーディネーターとしての機能を担うNPO法人リトルワンズ。
- スピーディーな支援
- 高い問題解決力
が同法人の大きな特徴です。
※「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」…
「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業は、高齢者、障害者又は子育て世帯の居住の安定確保及び健康の維持・増進に資する事業の提案を公募し、予算の範囲内において、国が事業の実施に要する費用の一部を補助するものです。」
(引用:スマートウェルネス住宅等推進モデル事業HP「事業の趣旨」より)
アメリカでのボランティア経験を日本で活かす
同法人の代表小山氏は日本で法人をスタートする以前には、アメリカでDV被害者のボランティアをされていました。
――アメリカでのボランティア活動を通して何か気づいたことはありましたか?
アメリカの支援の特徴は、
- 法律が強い
- 役割分担がかなり明確
この2つです。
弁護士、警察、SWとそれぞれのお仕事の線引きが明確でした。
ですから、その分支援までのスピードが速かったです。
反対に日本は書類がないと支援ができなかったり、役割分担が不明確だったり。
行政とNPOの連携も少ないです。
アメリカでの経験は「それぞれの現場のプロをつなげ、スピード感を持って支援を届ける」という点で非常にヒントになりました。
NPO法人リトルワンズの居住支援の流れ
NPO法人リトルワンズは、2012年から
- 使われていない「空き家」
- おうちをさがしている母子・父子家庭
の両者マッチングを居住支援の中に組み入れたモデルを活用されています。
オーナーとひとり親家庭の両者がともに得をする画期的なモデルです。
物件探し‐それぞれにあったお部屋探しをコーディネートする
不動産サイトのように物件が並んでいて探す形ではありません。
むしろ弁護士の予約に近いですね。
「家にこまっているから何とかしてほしい」という連絡が来てから、
- 希望のエリア
- 家賃
- 引っ越しの時期
を聞きます。
こちらは家のリスト、協力してくれる団体や不動産さんを活用して希望に合ったお部屋を探します。
引っ越しのお手伝いとか、住まわれるエリアのオリエンテーションもします。
オーナーさんには「今度の入居者さんも安心できる方ですよ」と伝えたり、家賃の交渉もします。
もし住宅のリノベーションが必要であれば、その補助金の書き方もこちらが指導してあげます。
POINT【ひとり親家庭の住居に関する心配事】
- 家賃…
家賃が高いところには住めない - ロケーション…
子どもを預ける幼稚園や保育園が近くに必要 - 不動産屋の理解…
ひとり親への誤解から物件を紹介しにくい - 保証人…
契約時に保証人になってくれる人がいない
NPO法人リトルワンズの居住支援モデルの特徴
迅速な居住支援‐最短3日の入居も
――お母さん・お父さんの中には「すぐにお家を見つけたい」方もいるとおもいます。そういった時はどうされていますか?
緊急に対応していています。
- 相談を受ける
- 翌日内覧
- 翌々日に引っ越し
最短3日間で引っ越しまで完了できたこともあります。
10日で出なきゃいけないとか、DVから避難される方なども多くいらっしゃいます。
DV被害者の方だとシェルターがありますが、期間が終わると出なければいけません。
お家は住まいだけでなく「安心の起点」なので、早めに必要だと思います。
――3日というのは早いですね。とても驚きました。そこまで早いとは…
3日というのはめったにない例ですが、とにかくうちはスピード感をもって支援をしています。
ご希望にあったお部屋をご提供していますが、お部屋は見てみないとわからないことが多いです。
行ってみて気にされるところは十人十色です。
できるだけお母さんとお子さんのご希望に合うように努力しています。
家賃交渉‐家賃を下げてもオーナーにとって入居は◎
――オーナーにも賃料の希望がある中で、交渉はどのように進めていくのでしょうか。
空き家は1年空いているので、今まで一切お金がはいってこなかったんですよ。
ですから、月の家賃額を減らしても毎月入ってくるのであればオーナーさんとしては全然メリットが多いです。
- 市場価格
- オーナーさんのご希望
- 入居者の支払い能力
などを考えて交渉しています。
今まで空いていた分、家賃の交渉はできますが「NPOと連携して社会的事業だから安くしている」という理由をちゃんとつけます。
交渉が難航したらフリーレントを提案
家賃を下げたくないというオーナーさんもいて、なかなか決まらないことも。
そういうオーナーさんには「例えばですけど、1ヶ月フリーレント(※)とかってどうでしょう」とかご提案します。
※フリーレント…
最初の1ヶ月のみ家賃無料。
ただしそれ以降(2か月目~)の家賃は当初の設定より値下げがなく固定。
住む方にとっても初期費用がかからないので嬉しい話。
今までの所、すべてのオーナーさんはご理解のある方ばかりです。
もし収益ばかりを優先されるようであれば、私達NPOと組むのはおすすめしません。
オーナーも、住む方もみんなが得をするような関係性も大事にしています。
ハード面(制度)とソフト面(支援)を組み合わせたハイブリッドモデル
――以前から「空き家問題」が深刻だったにも関わらず、貴法人のモデル事業が日本で初めて成功しているのはどういった理由からでしょうか。
そもそも民間の住宅を使うのは、国としては指針がでていたのですが「いつ」「どうやるか」が決まりませんでした。
また母子家庭の住宅支援は公的な住宅を優先していて、支援の体制は整っていなかったです。
一方で民間には空いている家や部屋はたくさんあります。
つまり、国・民間・NPOのそれぞれが必要としていたことを組み合わせたのです。
空いている部屋・家を活用し、生活支援と一緒に母子・父子家庭にご提供する仕組みは、誰も損をすることはありません。
~「World Habitat Award」最優秀賞を受賞~住宅支援を評価する国際的な賞「World Habitat Award」で、NPO法人リトルワンズが「最優秀賞」を受賞されました。
2018年ではアジアで唯一、そして世界一の団体としての受賞になります。
2019年4月に国連でも表彰・講演されるとのこと。
空き家リノベーションをして、生活支援と共にワンペアレントファミリーに貸すモデルは世界で高い評価を受けています。
専門職以外の一般の方がかかわる活動を展開
――貴法人ではどんな方が働かれていますか?
9割が社会人です。
それぞれ専門の領域で働いていますが、福祉系の人がほとんどいません。
NPO法人にしてはめずらしいですね。
全員本業をもって手伝ってくれるひとばかりで、それぞれのできることで協力してくれています。
「空き家活用」の良い点・難しい点
良い点‐オーナーとひとり親家庭の双方が得する「空き家活用」
――「空き家」を活用する良い点はなんでしょうか。
オーナーも空き家に入居してほしくて困っている。
一方お母さんまたはお父さんと子どもはお家がなくて困っているので、この2つをマッチしたほうが早いですよね。
オーナーとしてもずっと空いていた物件なので多少安くても、入居者が入るのはうれしいこと。
それに母子家庭の8割は就労していますから家賃もちゃんと払えます。
オーナーさんも「だれがくるか分からない」ということがないから安心できます。
難しい点‐親とこどもにとって好ましい環境の「空き家」ばかりではない
――「空き家」を活用するのに難しい点などあれば教えてください。
難しい点は、
- 保育園
- 学校
- 幼稚園
が近くにない物件は無理なんですよね。
全国のオーナーさん、不動産業者さんからかなりの量の物件をご提供してもらいます。
ですが、「近くに保育園などがない物件」や「寮や研修施設のような大規模な住宅」私達では使えません。
また「自分の物件に客付けしてください」とか、収益性だけを求める方とのお付き合いは難しいですね。
事業性と社会貢献的な要素の2つが揃っているのが"本当の住宅活用"だと思っています。
社会貢献としての「空き家活用」
――オーナー向けのセミナーでご講演をされているということでしたが、どのようなお話しをされるのですか?
オーナーさんにはどうしてもお金の話はさけられません。
とはいえお金の話だけではなく、社会にとってお部屋を使ってできることををお伝えしています。
オーナーに対しては資産運用と社会貢献の両方の観点から
- 安定した家賃収入
- 安心できる入居支援
- 今までの実績
の話をします。
ある物件では、オーナーさんと入居者のご家族が仲良くなって「孫ができたみたいだ」といって喜んでくださる方がいました。
普通は家賃のやりとりだけの関係で終わってしまうところが、私達の事業では新しい関係性が生まれます。
オーナーさんの中では、思い出のある自分の家が社会に役立ったことを喜んで新聞に投稿してくださった方もいらっしゃいました。
NPO法人が企業と行政をつなぐ
「行政」と「企業」の特徴
それぞれの“強み”があります。
「企業」と「行政」の特徴
- 企業…
業務と意思決定のスピードが速い
- 行政…
政策・手当の面から長期的な支援が可能
企業は、意思決定から実行までのスピードがとても速いです。
一方、行政は事業の実施までに時間がかかりますが、決定した事業案件については長期的に実行してくれます。
それぞれに強みがあって、両者とも社会的な事業のプレイヤーになりえます。
NPO法人が「企業」・「行政」の強みを生かす
――「企業」・「行政」でもない「NPO法人」にどんなことを期待されていますか?
それぞれ得意・不得意な領域がありますので、それを生かしつつ社会的に役立つ事業を作るのはNPO法人の腕の見せ所です。
【住宅の支援の場合】
- 行政:計画を立てて「補助金」を整備
- 民間:建築士⇒建築の提案
会計士⇒相続の提案
またNPO法人は「通訳者」でもあります。
行政も企業もNPO法人もそれぞれの違う文化のなかで生活しています。
ですからNPO法人がそれぞれの気持ちを通訳して、"一緒に"プロジェクトをつくっていきます。
NPO法人リトルワンズは、母子家庭のための住宅支援のプロジェクトで「行政」と「企業」をつなげています。
異文化というと外国のことだけではなくて、行政も企業も異文化。
この異文化を言葉だけではつなげるのは時間がかかるので、「プロジェクト」という同じ作業をやる機会でお互いの文化を学べます。
文化が違うため最初は戸惑うこともありますが、つなげてみると意外と上手くいくことが多いです。
“三者対等”な関係性だからうまくいく
今までは「NPOは行政の下請」みたいに思われていました。
行政ができないことをNPO法人が引き受けるという関係です。
企業も「NPOは寄付ばかり要求してくる」と思っていて、寄付をお渡しすだけの関係性も続いていました。
これは一方通行で上下関係ですよね。
私達はそのような関係性から、もっとお互いが楽しく、成長しあえるような対等な関係性を築いています。
なので三者定立として企業も行政さんもNPOもそれぞれ対等な立場でお仕事しています。
プロジェクトを通したNPO・企業・行政の「三者鼎立」です。
ひとつのプロジェクトとしてお仕事している仲間のような感じ。
お互いできないこととできることをやっているので、基本的にどっちが上とか下とかはないです。
このような対等な関係で社会的なプロジェクトを実施することが、日本全国で広まってくれることを願っています。
どんな企業でも参加できる
――子育て関連以外の企業について、事業に関連して何を期待されていますか?
リトルワンズに協力してくださっている企業さんの多くは、子育て関連以外です。
それぞれができることで関わってくださっています。
「子どもの貧困を解決」とか「母子家庭の生活を向上させる」とか、大きなことから考えると煮詰まってしまう企業さんが多いです。
母子家庭と子どもたちのために「我が社ではこれができそう」というくらいのアイディアから、実際にできることを一緒に考えていきます。
私は「できない事業は無い」と信じています。
どんな事業・企画でも
- 切り口
- タイミング
- 人
さえあれば絶対にできます。
多文化参加のプロジェクトが「企業の可能性の再発見」を促す
企業さんが持っている資源を使ったほうが
- コストがかからない
- まちがいなくスピードがはやい
です。
「母子家庭と子供たちのために何ができるか」を事業を通して考えると、企業のもつ資源や価値の再発見にもなります。
NPOと関わることで、「わが社の強みはここにある!」「こんなこと出来るんだね!」という発見や新規事業が生まれれば、企業の価値もあがります。
社員さんも自信が生まれます。
- 母子家庭の就労
- 子供のためのイベント
- 寄付を集まる仕組み作り
など企業によって生まれるプロジェクトは様々です。
今後の展望とNPO法人からのメッセージ
全国的にモデルを展開
――貴法人の「空き家活用」について、今後の展望をお聞かせください。
私たちのモデルは都市に特化しています。
都市は家賃が高いので、提供・活用するためには工夫が必要です。
【都市の住居に関する特徴】
- 家賃が高い
- (家賃が高いため)住まいに困っている母子家庭が多い
- 空き家が多い
今後は全国の都市部で「母子家庭の住宅支援事業」をどんどん増やしていきたいです。
自分のできることから社会に貢献
――「空き家活用」を通して、今後のワンペアレント支援に関して何か一言いただけますか。
「家」は人生の始まりです。
子どもにとってもお母さんにとっても、安心が生まれる場所でもあります。
ですから、私たちの事業に協力してくださる企業さんや行政が増えると嬉しいです。
リトルワンズの支援は、家だけではありません。
お子さんの体験の機会を増やしたり、お母さんのお仕事をご提供したり。
名前のとおり「リトルワンズ」は小さな団体ですが、みんなの出来る小さなことを集めれば大きな力になると信じています。
子どもたちは、人生の後輩です。大人は先輩ですよね。
応援してくれる先輩が増えてくれることを心より願っています。
深刻化を増している「空き家問題」。
- 行政の補助金を受けて魅力的にリノベーション
- 家をさがしているひとり親家庭に入居してもらう
誰にも使われず朽ちていく家を有効活用できることはオーナーさんにはメリットしかありません。
今回のNPO法人リトルワンズの活動は「空き家活用」に大きな突破口をひらくモデルです。
「ひとり親家庭を救う慈善事業・社会貢献」と聞くと、自分たちに何ができるか分からないのが本音。
しかしできることは身近にあります。
空き家物件を持っている方は「家」「部屋」で住まいを必要としている人たちに。
個人でも
- 寄付
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- この記事を物件オーナーに教えること
も支援に繋がります。
ぜひ、NPO法人リトルワンズにご連絡してみてください。
【法人詳細】
法人名 | 特定非営利活動法人リトルワンズ |
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設立 | 2008年4月 |
代表理事 | 小山 訓久 |
事業内容 | ①母子家庭の全般的な支援(生活、就労、住宅、情報支援や相談) ②子どもの貧困の啓発活動(企業、大学などでの講演) ③子どもたちのためのイベント企画と運営(アロマテラピー、BBQ、料理講座など) |
HP | http://www.npolittleones.com/ |
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