マンション長持ちの秘訣は「管理」にある
【NPO法人】
マンション再生・建替・支援センター様
今回はNPO法人マンション再生・建替・支援センターさんに取材をしてきました。
マンションを購入された方は必ず直面する「建替え・修繕」。
- 建替え・修繕って一体なにを・どう進めたらいいのか
- そもそも建替え・修繕を最小限にする方法はあるのか
- マンション経営で失敗しないマンション選びのポイントは何か
など具体的な事例と一緒に伺いました。
マンション投資を考えている方からすでに所有している方も必見の内容です。
マンション再生・建替・支援センターとは?
(写真:取材に参加してくださった理事の方々。(一級建築士)
左から三浦義幸さん、阿波秀貢理事長、石田道生さん、大間博さん)
国交省管轄で行った調査・研究が法人設立の契機に
――法人設立の経緯を教えてください。
平成13~15年の3年間、一般社団法人住宅生産団体連合会(国交省管轄)がマンションにかかわる調査・研究に助成を行うことになりました。
そこで私と三浦・大間の3人で申請をしましたら、3年連続で選ばれて
- 「築30年以上の分譲マンションの維持管理・修繕・建替に関する実態・意識調査」
- 「建替えによらないマンション再生(スーパーリファイン(※))の事例調査と再生条件の研究」
- 「小規模老朽マンションの実態調査(港区の場合)」
を行うことができました。
※スーパーリファイン…当法人による造語で、大規模修繕ではなく「これまでとは異なる付加価値を与えることも含んだ修繕」を指す。
調査の結果は実際にマンション関係で著名な方に引用されるなど、社会的にも意義のあるものです。
▼上記の調査・研究の報告書をくわしく見たい方はこちらから
→NPO法人マンション再生・建替・支援センターHP「調査・研究」
せっかく3年連続で調査を行ったのに解散するのはもったいないという話になり、平成15年10月にNPO法人を設立。
当時は調査・研究チームの3人しかいませんでしたが、現在は会員数10名となりました。
数が増えればいいのではなく、同根の者が集まって継続的に勉強会をしているというような状況です。
主な活動は季刊誌発行と「無償での相談対応」
――貴法人の活動内容について教えてください。
定期開催している勉強会での成果を「季刊誌」として公表していますが、あくまで活動の中心は無償での相談対応です。
内容によって
- 専門的なもの
- 別途労力が必要なもの
は有償となりますが、基本的には無償で応対しようという思いでこれまでやって参りました。
――参考までに次回の季刊誌でのテーマについてお聞かせください。
理事の一人が長期修繕計画のプロなので「長期修繕計画の在り方」について特集を組む予定です。
次に現在100年マンションという言葉がでてきているのでその事例をくみ上げようかと考えています。
事例ではマンションを3つ選出、ヒアリング調査を行ってまとめようかと構想中です。
――HPで「専門家による集団が問題解決を行う」とありますが、実際にはどのような方々が参加されていますか?
会員には
- 一級建築士
- 不動産鑑定士
- 宅地建物取引業
- 市街地再開発事業のプロ
- マンション管理士
がおり、弁護士が我々専門家集団のサポートをしてくれています。
マンションの建替え・修繕工事のカギを握る合意形成
建替え・修繕工事までのプロセス
建替え・修繕工事を行うまでのプロセスで一番大切なのが
- 準備段階
- 検討段階
- 計画段階
の3つです。
ここで方針を検討・決定していきます。
取材では、それぞれの段階でどう区分所有者の人たちが議論に参加していくのかなど詳しくお話を伺ってきました。
「準備段階」…有志による勉強会を発足し議論を行う
――実際に建替え・修繕工事の相談があった場合、どういったプロセスで進められますか?
はじめの「準備段階」では有志による勉強会を作ります。
そこで
- デベロッパーとどう進めていくか
- お金の調達方式の検討
- 補助金の使い方
など話をすすめられるようにサポートするのが私たち。
最終的に建替え・修繕の合意形成がされるためには、この有志の人たちの努力が“要”です。
「検討段階」…アンケート調査を実施・合意をとる
次にアンケート調査で「建替え意識があるかどうか」区分所有者に確認をとります。
全員が賛成の場合には問題ありませんが、誰か一人でも反対している場合にはその方を訪問して説得しなければいけません。
――アンケート調査の項目はどう設けていますか?
建替え・修繕工事の当事者は区分所有者の方々。
- 建替え・修繕工事をどう思っているか
- どういう内容にしてほしいのか
を聞く項目を設けます。
お金がかかることですから「なぜお金がかかるのか」「どのくらいかかるのか」については事前に説明。
その上でアンケートで意見を聞きます。
合意形成のためにはまずは理解してもらわないことには始まりません。
――合意形成に関しては区分所有者だけで取れれば修繕が進められることはあるのですか。
賃貸者のことも無視できないので、多少手間がかかっても合意をとって進めています。
――合意形成でうまくいかなかったら、時間をあけて進めるということはありますか?
当然ありますね。
合意形成ができるまでアンケート調査を実施しますが、あまりにも厳しかったら先延ばしにしようとか、いろんな経営のパターンが考えられます。
「計画段階」…修繕計画・長期修繕計画を作成する
――これまでに合意形成で大変だったケースなどありましたら教えてください。
区分所有者同士の意見があわず言い合いになってしまうともうお手上げです…
我々が行っても、我々を無視して喧嘩をはじめてしまうことがありました。
いいところにあるマンションでもそうなってしまうと平行線をたどる一方で、話は先に進みません。
――「建替え」が「修繕工事」に流れることはありますか?
建替えを検討するケースで多いのが「耐震改修」です。
ただし費用や合意形成の問題で「建替え」ができないとなると「修繕」に転換します。
――修繕工事では具体的にどのような箇所を修繕していきますか?
マンションの状況や合意形成がどれだけ取れているかによりますが
- 耐震改修
- 生活上の不具合
- 外装
などの修繕を行います。
昔の古いサッシは隙間風がはいってくるなど問題がありますね。(今は質がいいのに変わっていますが…)
外装についてはとりわけ「屋上防水」がメインです。
基本的な部位における劣化度を抑えて修繕を行うことを前提に費用を含めて検討していきます。
修繕工事の計画と並行して長持ちさせるための委員会を作ってちゃんと勉強していくことも重要です。
ハード面だけではなく、ソフト面でも考えた方が良いですね。
費用の目安を考えて工法を組み合わせて計画を作成
(写真:「長期修繕計画」や修繕の内容について説明いただいた石田氏と大間氏)
――建替え・修繕工事には費用はもちろんのこと、その間居住者の移転・引越しなど人的な労力もかかりますよね。
そうですね。
なので我々は基本的にもう建替えはムリだという認識をもって
むしろ建物を長持ちさせるような方向にシフトしています。
修繕とか修繕のあり方ですね。
――実際に大規模修繕の場合には、どれくらい費用として考えておいた方がいいのでしょうか。
一般的によく言われていたのは、中規模で100戸の場合は屋上防水も入れて一戸当たり100万ぐらいということはよく言われていますね。
しかし当然ながら仕事の内容と範囲によって違ってきます。
- 今回はお金がないから外壁だけに済ませる
- 屋上は劣化したら雨漏りになるから屋上防水だけ行う
など長期修繕計画が大事になってきます。
修繕するものによって修繕の周期も異なるので、劣化の状態と併せて計画。
費用に応じて修繕に使用する素材や方式を変更することも多いです。
【修繕方法ごとの費用の違い~屋上防水の場合~】
屋上防水工事の場合、
- 撤去工法
- かぶせ(再生)工法
- 機械的固定方法
の3種類があります。
そのうち、現在主流となっているのが2つ目の「かぶせ(再生)工法」。
従来の「撤去工法」とは異なり、安価で次回修繕時の作業も楽なのが特徴です。
ただし、同じ面積でも高層/低層マンションかによって費用を割る数が変わるので
区分所有者一人当たりの負担額も変動します。
――かぶせ工法を選択できるマンションとそうでないマンションなどあるのでしょうか。
下地があまりにもひどくなっていれば「かぶせ工法」は採用できません。
廃材はたくさん出ますが、一度すべて取ってから工事を行う方がいいですね。(=「撤去工法」)
工法を説明しましたが、修繕をどれほど必要とするかはメンテナンスの問題。
トップコートを塗るなどちゃんとお手入れしていれば長期間もちます。
建替え方式はマンションの建っている土地の状況で決まる
――区分所有者の方が建替え方式を選ぶ際、どう判断したらいいか何かアドバイスがありましたら教えてください。
建替えの方式は
- 自主再建方式
- 事業代行方式
- 等価交換方式
- 借地マンション方式
の4つがありますが、判断というよりは「その建物がおかれている状況」によって決まってきます。
本当に一番簡単なのは自主的に建替え(「自主再建方式」)です。
※区分所有者全員が抵当権としてマンションを所有していない場合のみ。
また等価交換の場合、自分たちでお金を出すことなくデベロッパーに建物を建てて貰えます。
例えば商業地域の中にある建物を建替える場合、今の面積の3倍になる時には一銭の持ち出しもしなくて済みます。
しかし上記の条件に当てはまるような地域では既に建物が建ってしまっていてほとんど残っていません。
要するにある程度の持ち出しがないと建替えはできないんです。
管理組合がお金を工面できればいいですが、そうはできないことが多いですね。
(関連記事:土地・不動産の"等価交換事業"とは?事業の流れやメリット・デメリットを解説)
マンションの建替えには築年数は関係ない?!
マンションの建替えは築年数ではなく「管理の度合い」で決まる
――これまで建替え・修繕のプロセスを伺ってきましたが、例えば「築年数○○年で建替えすべき」など目安があれば教えてください。
昔は築年数による建替えというのはたしかにありましたが、最近我々の経験からでは「大事に長くうまく使っているマンション」はたくさんありますね。
全く管理が行き届いていなマンションは劣化が進んでいます。
築年数というよりは管理の在り方ですね。
管理組合が機能していないマンションは劣化も早い
――御法人に寄せられたご相談内容について、差し支えない範囲で教えていただけますか?
相談はさほど多いわけではありませんが大半は大規模修繕に係る技術的なサポートが必要なケース。
相談内容を伺っているうちに
- マンションがボロボロ
- 管理規約もない
など管理組合が動いていないことに気が付くことがありました。
見落とされがちですが「マンションは管理で買いなさい」と言われているほど重要です。
時代で異なる「マンション」と「コミュニティ」の関係性
「コミュニティ」に対する意識が高かった昔のマンション
(写真:「マンション」と「コミュニティ」の関係性について語る阿波理事長と三浦氏)
――季刊誌の中で「マンション設計に“コミュニティ”が意識されるようになった」と記載がありましたが、最近意識されるようになったのでしょうか。
「コミュニティ」と「共同住宅」とのかかわりというのは相当古く、今の方が少ないです。
- 銭湯
- 理髪店
- 広場
などは昔のマンションの敷地内にありました。
――それは意外ですね。現在の新しいマンションの方が多いかと思っていました。
逆ですね。
戦後ですと前川国男氏による「晴海高層アパート」が代表的ですが、戦前の同潤会アパートメントにも上記に紹介した施設が施設内にあります。(※1)
ル・コルビュジエ(※2)のところにいましたので思想が高まっていたんだと思います。
屋上庭園を構想したりなど昔の集合住宅のほうが「コミュニティ」に対する意識は格段に高いです。
※1 戦後の晴海アパートには共同浴場、歯医者、小売り店舗。戦前の同潤会アパートでは銭湯や食堂、理髪店などがあった。
※2 ル・コルビュジエ…フランスで活躍した「近代建築の三大巨匠」で、超高層ビルで建替えを行う都市改造案『ヴォアザン計画』が有名。
住宅を基盤とした都市構造を構想した世界的な著名建築家で、前川氏は彼に師事していた。
「コミュニティ設計」から「アメニティ設計」への転換:有明・小金井の例
――昔のマンションの方が「コミュニティ意識」が高いとのことでしたが、現在の新しいマンションではそういった意識はみられないんでしょうか。
新しいマンションで注目を浴びているのは有明ですね。
- 屋上プール
- スパ(大浴場・露天風呂)
- セラピーブース
- ジム
などを設備しています。
ライブラリーがあるマンションもありますね。
最近の新しいマンションでは「コミュニティへの意識」ではなく「“快適な居住環境を作りだす”アメニティへの意識」が高まっています。
ソフト面で意識されるようになった「コミュニティ」
――現在のマンションでは「コミュニティ」は全く意識されなくなったのでしょうか。
設計上ではたしかにそうですが、ソフト面では違っています。
昔は「仮住まい」として考えていたマンションも現在では「終の住処」とする考え方に変わりました。
そうすると「長く住むのであれば周りとうまく関係を築くほうが良いな」という認識に変わるのは自然ですよね。
関西のあるマンションの管理組合ではコミュニティ委員会を設置。
ちゃんと予算を組んで、近隣の方に配慮した修繕など配慮を行っています。
「経営マインド」をもった管理組合です。
マンション購入で失敗しないために
一級建築士の介入を確認してマンションを選ぶーレオパレス問題をうけて
――先日のレオパレス問題では、住宅の建築基準が満たされていないことが発覚しました。
区分所有者の方たちが事前にそういったリスクを回避できる方法はありますか。
マンションを購入する際は出来上がったものを買うので、うっかり買ってしまい後から気づくことは往々にあります。
レオパレス問題の場合、建物を見ただけでも「こんな狭い面積に部屋を作って何か芳しくない会社だな」と思っていました。
ただレオパレスだけではなく、粗悪品で建築しごまかした上に役所の検査が無いケースはあちらこちらにありますね。
検査体制の問題だと思います。
現在役所では手が回らないので民間の検査機関を作ってそこに頼む方法がありますが
どこまで正確にやってくれるかはわかりません。
正直言って一般の人が違法かそうでないかを見抜くというのは難しいとおもいますね。
図面上は整合しているので、作為的にやられると我々プロが見ても見分けられないケースもあります。
――そうなるとマンション購入の際は、建築物が違法であるリスクを考えた方がいいのでしょうか…
リスクは本来はなく、リスクのある物件は全体の本当に一部だと思います。
手を抜いて儲けを優先している事例があったので「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(※)が制定されました。
※住宅の持つべき性能をその住宅が本当に持っているのか判断できる法律。
通常はその法律に基づく「日本住宅性能表示基準」で住宅を点検するので、その分リスクも抑えられます。
ただそれでも完全ではありません。
リスク回避の方法の1つとして考えられるのは、一級建築士のいる設計事務所が設計段階で入っているかどうかを確認すること。
一級建築士は技術的・法律的な問題の有無をチェックする役目を負っています。
設計事務所が入っているところを選べば、何も考えないよりはリスクを回避できる可能性が高まるでしょうね。
耐震改修には2種類あるー「“耐震改修法規”のもの」と「法規ではない改修」
――これからマンションを買おうかなと思われている方が、どういった点に留意してマンションを選ばれたらよいでしょうか。
できれば耐震改修をしてあるマンションを選んだ方がいいと思いますが、それほど数が多いわけではありません。
しかし実は法規のすべての改修を終えていなくとも、ある程度改修を終えているマンションは多いんです。
改修を行ったマンション全体の7割~8割はそうだと思います。
「耐震改修法」が項目が大変細かくて、管理組合も居住者も項目すべてやることにお金を充てる必要性を感じないことがほとんど。
ただ「耐震改修法」に則ったマンションであればより安心できることには変わりません。
管理組合が機能しているマンションを選ぶが吉
――その他にマンション購入に際して気を付けるべきことがあれば教えてください。
一番は管理組合がしっかりしているかどうかではないですか。
――管理組合の良し悪しはどこで判断できる要素はありますでしょうか。
- 規約があるか
- 定例会は開催されているか
などが判断の要素になります。
あるいは購入する前に管理組合の理事長さん話をさせてもらってみてください。
きちんとした管理組合であれば対応に応じてくれるはずです。
管理組合が機能していないマンションは管理もずさんになるので、老朽化が進み建物も長持ちしません。
40~50年の建物でも、管理組合による丁寧な管理体制がしっかりしていれば「いいマンション」は「いいマンション」であり続けます。
トチカム編集者後記
今回の取材のテーマは「マンションの建替え・修繕」に関してですが、そこからみえてきたのは
- マンションの選び方
- マンションの管理
が長期的なマンション経営を左右するということです。
ずさんな管理体制のために建物が劣化し
- 建替え・大規模修繕をしなければいけなくなる
=支出の増加 - 不動産の魅力低下
=空室率・収入低下
を招くことに。
30年50年と付き合っていく不動産だからこそ、最終的に「いかに良い状態で保つか」が「どれだけ利益を得るか」に直結します。
“マンション購入を考えている人”も“すでに持っている人”も、今一度マンションの状態と環境に目を向けてみてください。
法人名 | 特定非営利活動法人マンション再生・建替・支援センター |
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理事長 | 阿波 秀貢 |
設立日 | 2004年1月5日 |
活動内容 | ・マンションの管理・建替え/修繕に関する 無償による相談対応またはアドバイス ・調査・研究 ・教育・研修 |
HP | http://mansion-saisei.jp/ |
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