『不動産オークションの時代』
~土地のオークション売却~
今回は日本でオークション理論研究の第一人者と言われている坂井豊貴氏(慶應義塾大学経済学部教授)に「不動産オークション」について解説いただきました。
- 売主が所有不動産に対して値段を設定
- 買主は自分の希望条件と値段を照らし合わせて購入
- 売買取引成立
現在不動産売買の仕組みは上記3つですが、坂井氏は従来の不動産売買ではなく、さらに高値で売却しやすい「オークション」のサービスに携わっています。
- オークションに向く「土地」の持つ特性
- 不動産オークションのメリット
- オークションを採用するための条件
など、不動産市場での最新の経済学理論研究・実践の世界にふれてみましょう。
さかい とよたか
坂井 豊貴氏
慶應義塾大学経済学部教授
(株)デューデリ&ディール・チーフエコノミスト
ロチェスター大学Ph.D.(経済学)。
著書に『多数決を疑う』(岩波新書、高校教科書に掲載)、
『マーケットデザイン』(ちくま新書)、『暗号通貨vs. 国家』(SB新書)ほか。
現在、東京経済研究センター理事(財産管理運用担当)を併任。
業績一覧はHP:https://toyotakasakai.jimdofree.com/
Twitter: @toyotaka_sakai
土地は美術品に似ているが
土地をオークションで売るという選択肢について、これから説明したいと思います。
ただしオークションの成功には一定の専門知が必要ですし、オークションに向いてない土地も多々あります。
しかし上手くオークションにかけると、通常の指値での販売より10%以上は高値になる実感を私はもっています。
そもそも土地が(たとえば)1億円で売れると思うのなら、1億円の指値で売るのではなく「1億円をスタート価格に」オークションをすればよいです。
1億円以上で売れるはずです。
唯一性のある商品は「オークション向き」
土地の値付けは通常思われているよりずっと難しいものです。
そもそも土地は世界に同じものが二つとない商品なので、いわゆる相場はあるようでありません。
景気や開発の動向によっても市況は変わります。
だから値付けは良くいうと職人技、悪くいうと勘まかせになりがちです。
商品として土地を見ると、これは一点ものの美術品に似ています。
このような商品は、売る側が「この金額で」と指値や定価を付けるのに向いていません。
例えば以前、現代美術家である村上隆氏の作品「マイ・ロンサム・カウボーイ」がサザビーズのオークションで約16億円で競り落とされました。
これは大変な高値とニュースになりました。
しかし事前にそのように予想した人はいませんでした。
長年オークションを運営しているサザビーズだってそうです。
だからこそ売る側が指値を付けるのではなく、オークションで入札者たちに競争で価格を付けてもらうのが正解だったわけです。
土地も美術品も、それ自体に利用価値があるのみならず“「資産価値」があるもの”です。
その点もとてもよく似ています。
それにも関わらず、土地のほうにはオークションが普及していないというのは不思議です(理由は後述します)。
様々な分野で採用されているオークション
実はオークションは様々なものの売買で活用されています。
たとえば日本政府は国債を毎年30兆円以上、オークションで金融機関に売っています。
スーパーで売られている魚の切身は、豊洲市場のオークションでベースの価格が決定。
そこに輸送費や人件費などが上乗せされて定価になります。
身近な価格の土台にオークションがあることは多いのです。
オークション理論のビジネス活用へ
「オークション」と一言でいっても、実はやり方がたくさんあります。
- 競り上げ式
…低い金額から始めて金額を上げていく方式。 - 第一価格方式
…入札者が金額を描いた紙を個別に提出、その中で最高額を書いた人が落札する方式。
これら以外にも多様な方式があります。
オークション理論でノーベル経済学賞受賞
経済学にはオークション理論(Auction Theory)という分野があります。
1961年にウィリアム・ヴィックリーという経済学者が創始したもので、彼はその貢献で1996年にノーベル経済学賞を受けています。
オークション理論は90年代にアメリカで行われた周波数オークションでの活用を皮切りに、すでに商取引の現場で実用されています。
経済学をビジネスに活用しようとする姿勢は、日米に彼岸の差があります。
日本での不動産オークション
高値売却が可能な土地のオークション
私は株式会社デューデリ&ディールで、オークション理論のビジネス活用に携わっています。
日本では非常にまれな経済学のビジネス活用で、土地をオークションで高値売却するための仕組みを整備しています。
豊洲市場のような競り上げ式をベースに、細部にオリジナルの調整を組み入れています。
競り上げ方式は高値になりやすいとの結果が、理論でも実験でも多いからです。
オークションのほうが指値より高値になりやすいといっても、これは何か阿漕なことをするからではなく単に高く評価してくれる人に売れるからです。
たとえばオークションせずに1億円の指値で土地を売ることにしたら、買い手Aが現れたとしましょう。
めでたく買い手Aに1億円で売却というわけですが、もしかすると次の日には別の買い手Bが現れたかもしれません。
それなら買い手AとBにオークションで競争してもらうと、より高くその土地を評価するほうが勝ちます。
「より高く買ってくれる人に売る」ができるのがオークションの強みです。
不動産オークションには「短期間で2名以上の入札者」が必要
ただし、この話に表れているように、オークションを実施するには、その土地をほしいと真剣に思っている入札者が2人は必要です。
でないと競争は起こらないからです。
山林や過疎地のような不人気な土地には、それは非常に難しいです。
また、そのように競争的な入札者を探すのに時間がかかる場合も、オークションは避けたほうがよいでしょう。
「それなりの短期間で競争的な入札者を2人見付けられる」というのがオークションを選択する必要条件です。
また、オークションするからといって「過去の最高値」を更新できるわけではありません。
たとえば不景気なときでもオークションならバブル期の最高値を更新できる、といったことはありません。
不景気なときなら、不景気なときなりの高値を導きます。
魔法の杖ではないということです。
日本の不動産業界でオークションが普及していない3つの理由
日本の不動産業界でオークションが普及していないのは3つ理由があると私は考えています。
第一に、そもそも1999年までは規制により民間業者が土地をオークションで売ることはできませんでした。
歴史が浅いのです。
第二に、オークションの成功には経験と学知がともに必要で、どの事業者にもできるものではありません。
そして第三に、売主から依頼を受けて土地を売却する仲介会社は、「高く売る」よりも「早く売る」を優先しがちです。
オークションの実施には手間暇がかかります。
しかし、それにより仮に100万円高く売れても、仲介業者の取り分はそのうちの数%に過ぎません。
3%とすると、売主にとっては実質97万円の収入増でも、仲介業者は3万円の収入増。
それが手間暇のコストに見合うとはかぎらないのです。
「高条件の売買」でなくオークションで高値取引を
「高く売る」を「早く売る」よりも優先して、高い指値を付ける仲介会社もなかにはあるでしょう。
ただ「オークションをしないで、高い指値を付ける」のは、私はおすすめしません。
もし1億円の指値で売れると思うのならば、1億円をスタート価格にオークションをすれば1億円以上になるからです。
新時代の常識へ
なかなか日本で土地オークションが普及しないなか、デューデリ&ディールの提供するオークションは稀有なサービスといえます。
- 学問的な裏付けのあるオークション方式を採用
- ノウハウの蓄積により手間暇のコストを削減
しています。
ただし、これは重要な点なので再度強調しておきますが、「それなりの短期間で競争的な入札者を2人見付けられる」土地でないとオークションは難しいです。
また今バブル期のような高値が出せるわけではありません。
昨今は時代の変化が激しく、常識も日々さま変わりしています。
- 時期によってホテルの宿泊料を大きく増減させる「ダイナミックプライシング」
- ネット上で広く資金調達をする「クラウドファンディング」
が脚光を浴びるなど、価格の設定やお金の流れをめぐる常識も大きく変容しました。
人気ある土地の売却についてはオークションという選択肢が追加されました。
すでにそのサービスは動いており、新時代の常識の一つになるだろうと私は考えています。
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