ハウスメーカーと不動産会社
~軋轢解消には「お客様ファースト」な関係づくり~
今回はTwitterを中心にご活躍の場を広げられている「はるりん」氏(株式会社HARUKA代表取締役)にご寄稿いただきました。
テーマは「ハウスメーカーと不動産会社の軋轢」です。
両者の関係は一見何の問題もないように見えます。
しかしはるりん氏曰く、両者には対立構造が存在するとのこと。
- 両者が衝突する理由とは
- 両者の軋轢の実体験
- 今後両者が目指すべき「お客様ファースト」とは
不動産業界の内情に、少し触れてみましょう。
株式会社HARUKA代表取締役
不動産業界で営業職を経験した後、現在は不動産会社を営む。
ブログの内容は不動産の知識だけでなく日常的な話題まで多岐に渡る。
(略歴)
ハウスメーカーと不動産会社の関係性は、お客様からすると良好に思われがち。
しかし、両者の考え方には大きな違いが存在します。
- ハウスメーカー・不動産会社の関係性の実情
- 両者がぶつかる理由
- 両者の関係が住まいづくりに与える影響
ハウスメーカー営業・不動産会社営業の両方を経験し、2013年に不動産会社を設立した私が伝えたいことを記事にします。
尚、この記事はこれから土地を探してハウスメーカーで家を建てる予定の人にこそ読んで頂ければ幸いです。
<ハウスメーカー>理想のお客様
ハウスメーカーにとって理想のお客様は
- 請負額(建築費)が大きい
- 他社と競合しない
という条件が揃っている方です。
請負額が大きいお客様
ハウスメーカーが提出する見積には25%から30%の利益が見込まれています。
※ メーカーによって異なる。
つまり、請負額が大きければ大きいほどハウスメーカーの利益は大きくなるのです。
それ故、ハウスメーカーの営業マンは請負額が大きいお客様の獲得を目標にしています。
他社と比べないお客様
ハウスメーカーは基本的に無料で見積(※)を出します。
※メーカーによっては有料の場合もあるので注意が必要。
しかし、これはお客様に対しては無料なだけ。
実際には
- 営業マンの人件費
- 設計士の設計料・調査費
などが掛かっています。
コストを抑えるために、ハウスメーカーも成約までの見積件数は増やしたくありません。
ハウスメーカーにとって、出来るだけ他社と競合せず、見積からの成約率が高いお客様が理想的といえます。
<不動産会社>理想のお客様
対して、不動産会社にとっての理想のお客様は
- 成約価格が大きい
- 決断が早い
という条件が揃っている方です。
成約価格が大きいお客様
不動産会社の利益(※)で多くの割合を占めるのは仲介手数料です。
※他にも利益を得る方法がありますが、今回は仲介手数料による利益のみ記載。
「仲介手数料は成約価格の3%+6万円」と法律で上限が定められています。(成約価格が400万円を超える場合。)
つまり成約価格が大きければ大きいほど不動産会社の利益も大きくなる仕組みです。
(例1)成約価格が500万円の場合
500万円×3%+6万円=21万円(税抜)
(例2)成約価格が3,000万円の場合
3,000万円×3%+6万円=96万円(税抜)
したがって、不動産会社の営業マンにとって成約価格が大きいお客様が理想的といえます。
決断が早いお客様
不動産会社はお客様の要望を聞いて条件に合った物件を紹介します。
しかし、何件紹介をしても成約に至らなければ報酬を受け取ることは出来ません。
仮に1年かけて100件紹介したとしても報酬がゼロの可能性もあり得ます。
また不動産(特に土地)はすべて一品ものです。
自分のお客様が気に入った場合でも、違うお客様が先に契約することも。
それ故、不動産会社の営業マンは決断が早いお客様を見つけることを目標にします。
利益構造と業務進行で生じる軋轢
ここで改めてそれぞれの理想のお客様を見比べてみましょう。
- 請負額が大きい⇔成約価格が大きい
- 競合しない⇔決断が早い
見えてくるのは、両者の理想像が異なっているということです。
では、上記によってどんな軋轢が生じるのか見てみましょう。
利益を得る構造の違い
不動産を購入するお客様の予算は決まっています。
しかしハウスメーカーが建物分、不動産会社が土地分から出来るだけ多くの利益を得ようとします。
そうなれば
- ハウスメーカー:少しでも安い土地を望む
- 不動産会社:少しでも安い建物を望む
となり、利害の衝突が起きてしまいます。
作業の進め方の違い
ハウスメーカーは見積のコストをかけないために、自社のアピールや設計の素晴らしさをプレゼン。
時間を掛けた上で最後に見積を提出してお客様獲得を目指します。
お客様はハウスメーカーの見積をみて土地の購入を検討するので、待つしかありません。
- ハウスメーカー:見積を提出するまで決断を待ってほしい
- 不動産会社:購入の決断が早くほしい
と、仕事の進め方は正反対の性質があります。
利害の衝突が不信感に繋がる
利害の衝突が続けばお互いに不信が生まれ、両者の間に悪いイメージが生まれます。
この悪循環が長い時間を掛けてハウスメーカーと不動産会社との間に大きな軋轢を生みだしたと言えるでしょう。
私はハウスメーカー時代、不動産会社に対して「情報を隠しそう」 「怖そう」 「騙されそう」 というイメージを持っていました。
その後不動産会社に入社。
不動産会社はハウスメーカーに対して「仕事が遅そう」「軽そう」「適当そう」というイメージを持っていると気付きます。
お互いに良いイメージを持っていませんでした。
実際に軋轢を感じたエピソード
ここで、私がそれぞれの立場で実際に経験したエピソードを紹介させて頂きます。
エピソード1:ハウスメーカー側とのやり取り
不動産会社時代、良い土地が出たのでハウスメーカーに資料を持っていったときの話です。
私『こんにちは。△△(不動産会社名)の□と申します。』
ハ 『なんの用ですか?』
私『良い土地が出てきましたので…』
ハ『あ、そこに置いといて…』
私『…』
(※ハ=ハウスメーカー担当者 )
こうした冷たい対応を受けたことは一度や二度ではありません。
エピソード2:不動産会社側とのやり取り
ハウスメーカー時代、分譲住宅用の土地を見つけるために不動産会社まわりをしたときの話です。
私『こんにちは。○○(ハウスメーカー名)の□と申します。』
不 『なんの用ですか?』
私『分譲用地を探しておりまして…』
不『〇〇さんは資料渡しても返事が遅いからね…』
私『…』
(※不=不動産会社担当者 )
こういった言葉をかけられた経験もあります。
このような光景が当たり前に見られるのがハウスメーカーと不動産会社なのです。
今後はお客様優先の協力体制を作る
お客様ファーストで考える
両者の間に軋轢があることで一番困るのはお客様です。
両者のこのような関係は、考えるまでもなくお客様の住まいづくりに悪い影響しかありません。
何かトラブルが起きた時にお互いが責任をなすりつけ合います。
そうなれば、お客様は間に挟まれて身動きが取れなくなることに…。
まずは双方ともに「お客様ファースト」を目指すべきです。
私は住まいというのは一つの芸術作品だと考えています。
不動産会社が用意した真っ白なキャンパスに、ハウスメーカーが素敵な絵を描く。
どちらか一方が欠けても決して完成することはありません。
互いの仕事を理解して対等な協力関係を作る
私自身、お客様の住まいをお手伝いしたい想いはハウスメーカー時代も不動産会社時代も全く変わっていません。
ではどうしたら理想の関係を築いていけるのでしょうか。
それはお互いの仕事をもっと理解することです。
ハウスメーカーと不動産会社の仕事は似ているようで全く違います。
ハウスメーカーで活躍した人が不動産会社で活躍できるとは限りませんし、その逆も同じ。
なぜなら必要な知識やスキルが全く違うからです。
それを理解しないまま、どちらが上か下か議論するのはナンセンス。
あくまで対等な関係を築いてお互いを敬い、協力することが大切になります。
本来ハウスメーカーと不動産会社はとても相性の良い関係です。
仕事の特性が違うため、互いを補い合える関係性といえます。
2015年~ハウスメーカー向けのセミナー展開
私は2015年からお客様向けセミナーと合わせて、ハウスメーカーの営業様向けセミナーをさせて頂いています。
セミナーの内容は主に二つ。
- 不動産知識の向上
- 不動産会社がハウスメーカーに対して思っている事
ハウスメーカーで10年以上勤務している人でも、不動産の基礎知識を全く理解していないこともあります。
そこで不動産会社の本音を伝える事で、お互いの思い違いを正すことが可能です。
ハウスメーカーの常識は不動産会社の非常識。
その逆もあると理解できたならハウスメーカーの営業様はお客様により的確なアドバイスができるでしょう。
不動産会社に関する知識を持ったハウスメーカー 。
ハウスメーカーの知識を持った不動産会社 。
そんな会社が増えていく事が、お客様の夢の住まいづくりの実現に繋がることになります。
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