隣家からの越境の対処法
~話し合いから裁判までを解説~
今回はFP業の傍ら、ブログで不動産や税金関連の情報を発信する「廣中伸一」氏にご寄稿いただきました。
テーマは「隣家との越境トラブルの対処法」です。
自宅の木や壊れた塀などが隣家との境界を越えると「越境」となり、トラブルの原因になります。
越境トラブルには民法上の様々な知識が絡んでくるもの。
- 越境の解消方法
- 隣家と揉めた・連絡がつかない時の対処
- 地中・空中での越境への対応
について、関連する民法の紹介も交えてご解説いただきました。
隣家との距離感が気になる方は、ぜひ参考にしてください。
ひろなか しんいち
廣中 伸一 氏
ヒロナカFP事務所代表
大手不動産会社にて10年勤務。
営業成績全国No.1を取得後、ヒロナカFP事務所設立。
不動産会社で培った経験と知識を活かし、名古屋を中心に富裕層や中小企業、会社員などを対象に不動産、相続税対策、所得税対策、ライフプランニングに強いFPとしてコンサルタント業務を行う。
ブログでは税金や生活面での役に立つ情報やお得情報を発信中。
Twitter:@kapisin
ブログ:https://hironakafp.com/
ご近所のトラブルで多いのが
- 騒音
- 臭気
- 越境
になります。
その中でも特に難しい民法の権利に関わる、他人地から自身の土地に対する越境の対処方法を今回はお伝えしていきます。
そもそも「越境」とは
「越境」=隣地との境界を越えること
隣地と自身の敷地の間には境界線があります。
自身の敷地の角にある境界票(杭)を線で結んだものが境界です。
境界票(杭)がないと、正確な境界は未確定という状態になります。
境界の確定は
- 有資格者である土地家屋調査士に確定測量などを依頼
- 全ての隣接地の立ち会いと承諾の印鑑を貰う
という流れで行われます。
そして越境は、その境界を跨いで他人地に他人の所有物が存在することです。
例えば
- 塀がはみ出ている
- 軒先・樹木などが空中で越境している
場合があげられます。
樹木や落ち葉の越境が一番多い
越境で一番多い問題が、樹木などが成長して隣地から自分の敷地に越境してくるケースです。
普段は気にならないこともありますが、冬などでは
- 落ち葉が庭や屋根に落ちる
- 雨樋に落ち葉が詰まり水が流れない
なんてケースもあります。
他人の敷地に生えている樹木の落ち葉を掃除するのはたまったものではありません。
樹木の落ち葉が敷地の中に入ってくることなどは越境被害と呼ばれます。
仮に境界票(杭)がなくても、明らかに自身の敷地に越境している場合は越境解消の請求は可能です。
しかし微妙なラインであればどこまでがお互いの敷地になっているか判断がつかない為、確定測量が必要になってきます。
勝手に越境を解消してはならない
他人地から越境している物を、自身で所有者の許可なく解消することは基本的に認められていません。
それは他人の所有物を勝手に壊すことと同義になります。
他人地の樹木を勝手に「枝部分だけでいいから伐採してしまおう」なんてことは、逆に隣の人から訴えられることも…。
民法第233条では、根は切ってもいいが枝葉は切ってはいけないと決められています。
根が伸び続けて建物や塀などの基礎を壊すことで、自身の所有物が損害を受ける可能性が高いからです。
ですが、枝なども伸び続け接触をすれば住宅の壁などが傷む可能性もあります。
この辺りは今回の民法改正でも変わっていません。
まずは越境している物の所有者に越境の解消・撤去の請求から始めましょう。
越境の解決方法
話し合いの解決でも同意書は必要
最も簡単な方法が話し合いによる解決になります。
隣地の方も、もしかしたら
- 気づいていない
- 越境について言われるまで待っている
ということもあります。
樹木を切るのも費用がかかるので、越境物の所有者も特に言われなければそのままにしたい気持ちもあります。
なので、越境の解消について頼むと意外と素直に応じて貰えるケースがほとんどです。
ただし「自由に解消していいよ」と言われたとしても、越境解消の同意書(合意書や覚書とも呼ぶ)を貰っておきましょう。
様々なことが問題の原因になる時代ですので、書面を貰っていた方がお互いの為になります。
費用負担や解消範囲も含めて同意書を作成しましょう。
解消費用は原因物の所有者に請求される
民法上、正当性のある越境解消の費用はその問題となる物の所有者に請求できると決められています。
正当性は裁判所の判断になりますが、自身の所有物に他人の所有物が
- 損害を与えている
- 損害を与える可能性がある
のは正当性が認められるケースが多いです。
ただし他人の所有物が越境していても、他人に了承のない無断での解消は余程のことがなければ正当性は認められませんのでお気をつけください。
隣地が越境の解消に応じない場合
裁判に発展するケースもある
相手方が快く了承して頂ければいいですが、交渉が拗れて越境解消に応じてくれない時もあります。
このケースの解決方法は非常に難しいです。
基本的には、簡単に解消できるもの(樹木など)であれば解決方法もあります。
しかし家などの建物自体が越境している場合などは、すぐに解決することはできません。
そうなると相手側が了承しない時も含め、裁判での解決になります。
売買時などでは、将来的に越境を解消する覚書(合意書、同意書)などで対応することが最も多いです。
これは今ある越境物を将来的に壊し作り変える際には、越境部分を無くして作り変える事への双方の確認を書面で残すものになります。
危険な越境は自分で対処可能な場合も
安全性の確保や緊急措置として、生活に危険を伴う著しい障害をあたえる越境物には自身での対処が認められることがあります。
他人地からの越境物が自身の構造物(家、塀、車など)に接触して傷つける行為は、自身にとっての損害。
損害の発生が明らかに見受けられる際に、越境の解消や未然に防ぐ行為は法律で認められています。
自身に損害がでることが明白なのにも関わらず、放置する人はいません。
また、損害が出てから損害賠償請求をするのも非常に手間です。
損害を受けそうな人たちに他人の所有物だからと言って手を出すなというのは酷なため、このような対抗する法律があります。
越境物の所有者が行方不明・連絡がつかない場合
財産管理人に請求を行える
隣地が空き家や更地だと、所有者の居住地や連絡先が解らないケースがあります。
法務局で発行している登記簿などで所有者の住所・氏名を確認すれば、簡単にわかるでしょう。
役所に苦情を伝えて解決することもありますが、役所も土地所有者を把握していないことも稀にあります。
また、個人情報保護の観点から開示してくれない場合も…。
登記簿や役所でもわからない時は、家庭裁判所に不在者の財産管理人の選任の申立てを行い財産管理人(※)に越境物解消の請求ができます。
※財産管理人=行方不明の所有者に代わり土地の管理を行ってくれる人。
つまり行方不明者の隣地所有者かつ利害関係人である自身は
- 裁判所に管理人を置くことの請求
- 管理人へ越境の解消の申し立て
が可能です。
解消費用についても、裁判所に必要と認められたら管理人が不在者の財産の中から費用負担を行います。
地下・空中に越境物がある場合
配管の越境は解決が難しい
- 狭小地
- 袋小路
- 昔ながらの住宅が建ち並んでいる地域
では、他人の土地の地中に配管(上下水道、都市ガス)などを通して建てられた家があります。
インフラ関係は生活するために必要なものとなりますので、配管による越境の多くは解消が難しいのが現状です。
裁判になったとしても、隣地の生活の為に仕方なく容認されることも…。
特に下水道には「余水排池権」という権利が民法と下水道法で認められています。
これは排水の為にやむなく隣地に配水管を通すことを認めるものです。
当該地に他人の使用する管があると売買時に減額の対象となり、買主に埋まっていることを告知する義務があります。
また、知らなくても地中を掘った時に管が出てくると瑕疵扱いです。
解決方法としては
- 他に接続できる方法がないかを探す
- 隣地を買い取る
- 隣地と共に売却をする
かになります。
一般的に、他人の管が地中に埋まっている土地を好んで購入する人はいません。
値段が下がっても手放したいなら、そのまま売却するのが手間も少ないです。
売買は、お互いが了承していれば問題がある土地でも可能になります。
電線の移設は簡単だが電柱の場所は要確認
空中では道路にある電柱から電線の引き込みなどが越境していることもあります。
電線の引き込み線などはNTTか電力会社のどちらかの電線になるので、比較的簡単に移設ができるケースが多いです。
敷地の中に電線が越境してるので、移設し欲しいと言えば電話一本で解決します。
しかし電柱が敷地内に入っていると、電柱の移設費用は自己負担です。
なので、電柱が敷地の中か道路のどちらにあるかはしっかりと確認しましょう。
分譲業者などに売却をする際、この費用は売買価格から差し引きされて金額の提示をされることが多いです。
敷地の中に電柱があれば、数年に一度はNTTもしくは電力会社から敷地使用料の入金があります。
越境は口頭で解決しなければすぐ相談
越境の解消は口頭で解決できることが多いです。
しかし隣地と不仲や行方不明、やむを得ずに越境している時は解決方法が極端に難しくなります。
自身で解決できないと思ったら
- 土地家屋調査士
- 司法書士
- 弁護士
などに相談することが有効な手立てになります。
安易に行動すると後で隣地から損害賠償請求が届くなどもありますので、ご注意下さい。
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