柔軟な賃貸経営が日本の「貧困問題」解消につながる
【認定NPO法人】
自立生活サポートセンター・もやい様
今回は認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい様を取材させていただきました。
もやいさんは認定NPO法人として初めて「宅建業」の免許を取得。
生活に困窮している方の住宅支援や生活支援など幅広く事業を展開しています。
- 日本の住宅事情はどうなっているのか
- 生活保護受給者との賃貸契約のメリットは何なのか
- 物件のオーナーが果たす地域・社会での役割
など、盛りだくさんの内容をお伺いしました。
この記事が、空室のある物件のオーナーさんが社会貢献に目を向けてくれるきっかけになれば幸いです。
認定NPO法人自立サポートセンター・もやいとは?
ホームレスの方の「保証人問題」解消から活動をスタート
――御法人の設立の経緯に関して簡単にお教えいただけますか?
1990年代に東京ないし日本で「ホームレス問題」がかなりクローズアップされるようになりました。
都内でも大きな駅(新宿・渋谷・上野)で野宿をされている方に対する支援は、ボランティア団体によって進められることになります。
一方で行政による支援の仕組みは無く「追い出し」なども当時多く見られました。
2000年になって東京都が国に先駆けて「自立支援センター」を設立。
住宅を基盤とした自立した生活構築を支援する目的で、2000年11月に台東区(台東寮)と新宿区(新宿寮)の2か所でスタートした事業。
~センター利用の流れ~
- ホームレスの人(路上生活者)が当センターのシェルターに入って住民票を取得。
- そこで生活し(最大6ヶ月)仕事を見つけ働く。
- 溜まったお給料で自立する。(=アパートを見つけて自分で暮らす。)
この制度で自立された方もたくさんいますが、自立したくてもできない方がいました。
当時は家賃債務保証会社もなく、家族・親族を頼れない人は保証人がいないため賃貸契約が結べず自立できないという問題が発生したんですよね。。。
これを受けて「自分たちが保証人を引く受けることができないか」ということで2001年にもやいを設立。
2003年にはNPO法人格を取得となりました。
緊急連絡先600世帯も引き受けている
2010年代に入ってから“保証会社”が広まり、大家さんでも「保証会社じゃないとうち入れないよ」という方が増えました。
保証会社の審査を通すための緊急連絡先がいないという方もいらっしゃって、そういう方がた連絡先を約600世帯受けています。
保証会社を利用できる方は利用して頂いていますが、
- 75歳以上
- 精神疾患がある
- 過去に滞納履歴がつづいた
ということで保証会社の審査に落ちてしまう人がいる(※)のも現実です。
※その場合は保証人のみでOKしてくれる大家さんの物件を探し、もやいが保証人を引き受け賃貸契約を結ぶ。
もやいの4つの事業
――保証人や緊急連絡先の引き受けの他にはどのような事業をされていますか?
4つの事業に分かれて日々活動しています。
- 生活相談・支援事業
- 入居支援事業
- 交流事業
- 広報・啓蒙事業
①生活相談・支援事業
生活困窮者の相談は年間4000件ぐらい受けています。
- 住まいがない方もそうですが
- 生活費が無くて困っている
- 仕事をなくした
など様々な悩みを抱えた方がご相談に来られます。
②入居支援事業
連帯保証人や緊急連絡先の引き受けや安否確認を行っています。
あとで紹介する不動産仲介業もこの事業の一つです。
紹介した物件での滞納があった時の対応やフォローも行っています。
③交流事業
交流事業では
- 毎週土曜日にカフェを開店
- 女性や若者たちの居場所づくり
を行って、人々が集まれる機会と場を提供しています。
サロン・ド・カフェこもれびこれまでにもやいを利用した方だけでなく“誰でも立ち寄れる”カフェ。
毎週土曜日に350円でドリンク付きのランチを提供しています。
▽実際のカフェの様子はもやい様のブログをご覧ください。
→認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいブログ「サロン・ド・カフェ・こもれび」
東ティモールからフェアトレードでコーヒー豆を仕入れてスタッフが焙煎をして販売、イベントに出品もしているんですよ。
またもやいを利用された方で亡くなられる方もいらっしゃいます。
ご家族のお受け取りがない場合は無縁仏になり、とても悲しいことに無縁仏の方のお骨が産業廃棄物になるんです。
付き合いがあった方だと寂しいじゃないですか。
- 生前にご希望をお聞きできた方がはいることができるお墓(複数の団体と共同で実施)
- 事務所にある仏壇の遺影に手を合わせる
などできることをしています。
④広報・啓蒙事業
政策提言の活動でこういう法律を作ってほしいというのを要望したりしています。
“個”を最大限尊重する関わり合い
――保証人を引き受けた方とのその後の関わりについて教えてください。
- 交流事業の「居場所づくり」でのイベントの開催
- 三カ月に一度お手紙を送付
していますが、参加する人は決して多くはありませんね。
孤立されている方や、我々だけのアプローチと合わない方もいらっしゃると思うでの、メニューが足りないこともあります。
もちろんご自身で仕事をされていたり、自分のつながりを見つけた方もいますね。
管理っぽくこまめに行くのもご本人にとっては“生活を侵害されている”という思いもあると思います。
その辺のかかわり方は難しいです。
なのでイベントの告知や「カフェで安く食べれるからおいでね」という程度にし、基本的にはドライに関わっています。
ただ相談に来られた方の問題解決にあたってスタッフが長期間接することがあるので
関わりは薄いようで濃淡がかなりあるというのが正直なところですね。
――個人のつながりを強制することはできませんよね。
それはかなり大事にしています。
支援団体の中には、親身に家族的な支援をポリシーにされているとこもあって、それも一つの考え方としては良いと思います。
一方でそれに合わない方だと苦痛になってしまうこともあるので、僕らはあえて一定の距離をもって、彼らが必要なサービスを我々ができる範囲で提供して徹しています。
そのサービスの中に「個別性の濃淡」を入れていないというのも、もやいの特徴の一つです。
連帯保証人の審査も居場所事業に参加できる方の制限も設けていません。
ご相談に来られた方と他の方とを差別化してしまうことにもなるので。
2018年5月から「不動産仲介業」事業を始動
――「住まい」から御法人を知ってご相談にこられるということでしたが、実際に相談の時点から仲介に関しての流れを教えてください。
不動産仲介は次の流れで行います。
- 相談窓口で相談を受ける
- 物件の立地・その他の希望を聞く
- 物件をリストアップ
- 内見
- 物件を気に入ったら入居
もやいを利用する方は生活保護を利用する水準の方が多いので、[②物件の希望]を聞いた上で生活保護の上限金額で物件をリストアップします。
東京都の生活保護「住宅扶助基準額」上限額一覧
~単身世帯の場合~
床面積15㎡以上 | 10㎡超~15㎡以下 | 6㎡超~10㎡以下 | 6㎡以下 | |
---|---|---|---|---|
1級地(23区と24市) | 53,700円 | 48,000円 | 43,000円 | 38,000円 |
2級地(あきる野市,羽村市…) | 45,000円 | 41,000円 | 36,000円 | 32,000円 |
3級地(日の出町,桧原村…) | 40,900円 | 37,000円 | 33,000円 | 29,000円 |
(参照:東京都福祉保健局『生活保護「住宅扶助基準額」の見直しについて(略)』)
しかし僕らが所有している物件もなくサブリースもやっていないので、なかなか物件が決まらないケースが多いです。
物件をリストアップをして連絡をしても、なかなか受け入れてもらえません。
「女性で精神障害があるとだめだよ」など、そういうことが圧倒的におおくて。
私たちは本人の希望でやるのでもう少しで時間がかかってしまいます。
一番最初に相談を受けた方だと100件以上問い合わせてやっと見つかりましたが、仲介手数料は5万円(法定の家賃一ヶ月分)ほど。
一般的な不動産会社では僕たちが探している物件水準(5万3,700円)より低い物件を探して紹介していることも考えられます。
僕たちのような支援は営利でやっていくのは難しいです。
経済合理性を考えると一般の不動産屋さんで相手にされないことが多いのは仕方がないかもしれません。
“本当の”ご希望を確かめながらの物件探し
――「住まい」への希望をお聞きになられた際にご希望がまったくないという方もいらっしゃいますか?
他の不動産に行って追い返される経験を繰り返ししているので、相談に来られる方が一番最初に言うのは「なんでもいい」。
じっくり話を聞いてもらえるだけで「まずここにお願いしたい」という思いになってしまって話になってしまいます。
ただ3万円の「風呂なし・トイレ共同アパート」で良い訳ではありません。
実際に内見を繰り返していく中で、その人の一番のご希望が何なのかが見えてきます。
なので初回でお聞きした内容で物件探しをしていくわけではなく、ご本人が物件を即決したとしても「ちょっと考えよう」といってブレーキを踏むことも多いです。
病気や障害など様々な事情があると
- 騒音の少ない静かな住宅街にあるお家が良い
- 通院がしやすいところ
- 洗濯機は中付けがいい
- 木造より鉄筋コンクリート造がいい
- 線路近くは苦手
など“こだわりポイント”があるもの。
長く生活を続けていくために、コミュニケーションをとりながらご希望とすり合わせる作業がとても大切です。
他団体との連携も図っている
――東京都内でこういった事業をされている法人は他にどういったところがあるのでしょうか。
不動産免許をもっている認定NPOはここ(もやい)だけです。
都内では私たちのように、相談事業から生活支援・住宅支援や居場所づくりなどのアフターケアまで一連の流れを総合的にやっている団体は多くありません。
しかも不動産免許を持っているNPOは全国で10団体ほどで多くは地方です。
ただ生活保護の方の支援となると
- ホームレスの人たちに炊き出し
- 相談支援
- 施設・シェルターの設置
- 居場所づくり
- 子ども食堂
など、たくさんの団体が活発に活動を展開しています。
またひとりの方のご相談内容に幾つかの団体で協力しながら総合的に支援をしていて、僕らもそのパートになっている場合もあるんですよね。
例えばDV被害の相談をうけて(他団体の)シェルターに入られた方の保証人だけうちがやっていた事例もあります。
~東日本大震災ともやいとの関わり~
――大西様はどういったご経緯で御法人に参加されることになったのですか?
元々(もやいとは)別の団体で新宿を拠点としてホームレス支援の活動をしていた時に一緒にやっていた人がここの前理事で
「一緒にやっている先輩がやってる団体」程度の理解でした。
ボランティア登録だけしていてあまり参加はしていませんでしたが、大きな契機となったのは2011年の東日本大震災。
当時ここもやいで活動をしていたメンバーの多くの方が被災地に赴いて支援をされていました。
僕も被災地に行ったのですが、みんなが被災地に行くと当然東京でもやいの活動をする人がいなくなりますよね。
そこで前理事長に「相談活動など運営も必要で支援者が足りなくなるのでコミットしてほしい」と言われて
2012年から関わりはじめて2014年に2代目理事長に就任しました。
設立メンバー湯浅氏「震災ボランティア連携室」室長に任命東日本大震災が発生した5日後、菅内閣は被災地でのボランティア活動を組織する「内閣官房震災ボランティア連携室」を設置。
室長に任命されたのが、もやいの設立メンバーである湯浅誠氏です。
湯浅氏は震災以前、政府が貧困政策に取り組むために内閣府参与としてかかわっていました。
(参考:朝日新聞DIGITAL「震災ボランティア連携室長に湯浅氏 (略)」2011年3月16日)
現代の日本社会と“貧困”問題
多層的な日本の都市構造-貧困層と富裕層が同じ地域に居住
――例えば東京のなかでもどこかのエリアに集中しているなど街の傾向はありますか?
ホームレスの方の場合は都市部だったり、山手線の大きな駅の中心だったりが多いです。
ネットカフェで生活している人も24時間のお店が大きな駅の周辺にしかないので、同じようなエリアで生活しています。
しかし“貧困世帯の多い地域”ということになると必ずしもそうではありません。
日本の大都市では同じ町に困窮者もお金持ちもどちらも住んでいます。
諸外国の場合は“スラム街”的な場所に集中しますが、少し形式や種類が違うのが日本の特徴です。
例えば港区の駅前のタワーマンションに金持ちの人が住んでいますが、そこから15分ほど歩くと団地がいっぱいあって今でも貧困世帯の人が住んでいる。
その間には一軒家のいわゆるミドルクラスと言われている人が住んでいるので、とても特徴的ですね。
なので特定の地域に貧困な方が住んでいるというのはあまりありません。
――比較的裕福な方が住んでいる地域の中に「貧困」が組み込まれているからこそ、相談内容も大変バラエティがあるのですね。
はい、その通りです。
うちの事務所の近所(新宿区)では8,000万円で売り出されている分譲マンションがありますが、
近くに木造で家賃4万円の物件もあります。(古いですが。)
新宿区は町としても面白くて何か特徴はあるのかなと思います。
年代・性別を問わない「生活困窮」の様相
――相談内容から経済状況など実に様々な方が相談に来られていると思いますが、平均年齢として大まかに何歳ぐらいの方が相談に来られますか?
我々が支援している方の特徴として“生活に困窮している”ということが共通点になりますが、それ以外は本当にバラバラです。
性別でいうと男性6:女性4で、セクシャルマイノリティの方も相談にいらっしゃいます。
相談に来られる方の平均年齢45歳ぐらいですが、10代・20代・30代や高齢者の方も多いのでかなり多様ですね。
相談に来られる方で働ける人もいます一回私たちの支援を受けたあとはその後利用されないこともあります。
ただ居場所系の事業では高齢者の方とか病気や障害の方が多いです。
――「自分が困窮している」という感覚は人それぞれですよね。そうなると相談に来られる方の経済状況もかなり変わってくるのでしょうか。給料の内容も様々ですよね。
圧倒的にケースバイケースです。
例えば寝泊まり場所がないというかなり困窮度の高い方もいれば
“今は困窮していないけど困窮したらどうしよう”と不安に思われている方もいらっしゃいます。
またご実家暮らしで生活面はなんとかなるが、親御さん又はパートナーから暴力を受けている方。
そこからでたときの不安や心配が多く出れずにいるんだという相談も多いです。
経済的な指標だけで見るのは簡単ですが、
- 孤立
- 将来・今後の生活への不安
- どの制度が利用できるのか分からない
などは相談を受ける方に共通している点だと思います。
「社会関係資本」の貧しさと「住まい」問題
――保証人の事業をスタートされてから、何か気づかれたことや事業から得た知見があれば教えてください。
設立当初は「ホームレスの保証人」ということで事業をスタートしましたが、保証人を必要としている人は必ずしもホームレスの人だけではないことがわかりました。
- DV被害をうけて役所のシェルターに入っていた方
- それから児童養護施設出身でそもそも家族がいない方
- 精神障害を持っていて長く入院していた方
- 親御さんが外国籍の方で保証人審査が通らない方
などバラエティーに富んだ相談をうけました。
家族・親族の方とか人間関係・つながり(=社会関係資本)を失っている方がたくさんいらっしゃるんだなと。
そういう方々からお願いに対してどうにか力になれないかと思いました。
なので現在では広くホームレス状態の方や“自分の住まいをもたない方”がアパートを借りる際の連帯保証人の引き受けをしています。
保証人の引受件数は延べ2400世帯ほどです。
時代の変化に伴うオーナーと住宅の変化
保証会社の一般化による保証人需要の低下
――不動産関係の事業をスタートしてから10年以上経過していますが、その中でオーナーの対応の変化などはありましたか?
ありますよ。
そもそもうちが連帯保証人の事業を始めたころは保証会社が少なく、家族・親族が保証人をやることが大前提でした。
しかし今は保証会社が広まって、うちが保証人を引き受けていた物件でも保証会社に切り替えるオーナーさんもいます。
大家さんからすれば、非営利団体よりも大手の保証会社の方が安心なのだと思います。
また保証会社では引き払いは行いませんが、家賃債務に関してはしっかりやってくれるので、ご家族が保証人よりも安心という合理的な大家さんも出てきました。
【補足】
大手の保証会社の場合、緊急連絡先を親族限定にしているケースがあります。
契約行為において「家族・親族」の存在に頼る社会からの脱却はまだ実現できていません。
建替えによって住居を失う生活困窮者
オーナーチェンジで従来の契約内容が変わることもあります。
それまでおばあちゃん大家さんが「困っている人ならうちが引き受けてあげるよ」と仰ってくださり、うちで保証人を引き受けて契約していました。
ですがオーナーチェンジして娘さん息子さんとかの代になると、
- 建替え
- 家賃値上げ
などが理由で、住んでいた方が退去せざるを得なくなってしまうこともありました。
新宿区など都心の地域では再開発もあって、地価・相続税の関係から建替えて価格帯をあげた方が入居が進むケースもあります。
――例えば更新拒否をされてしまって、その期間はせっぱつまってしまうとおもうのですが、実際にはどのようにされていますか。
実際に見つからない時は大家さんにご相談、少し退去期限を延ばしてもらったり
大家さんによっては立ち退き料を出してくれるケースもあります。
相続の場合だと最初から弁護士や不動産業者さんが大家さんの代理で対応してくれることが多いです。
第三者とのお話なので、延長期間や費用についてドライでビジネス的な話(交渉)になることがあります。
こういった交渉は大抵の場合ご本人だけだと大変です。
僕たちは専門家ではないので、弁護士の方を紹介するケースもあります。
――なるほど、住まいの支援ではオーナーの方との交渉もあるんですね。
オーナーさん以外にも、ご入居者が生活保護の方になると行政とも相談しないといけません。
給付を受けているので
- 違う地域への引っ越しの可否
- 生活保護法上の臨時収入(立退料)の扱い
など結構大変です。
偏見で制限される住まい探し
――保証会社の台頭やオーナーチェンジなどで、ますます物件探しが大変になるのではないでしょうか。
正直質の悪いところ、たとえば風呂なし共同で4万5000円でとかなら見つかります。
これが"昔ながらのホームレス"のような健康で元気で「今から銭湯言ってくる!」とかいうおじさんだったらいいかもしれません。
ですがうちに相談に来る生活保護受給者や発達障害や精神疾患を抱えている方は難しいです。
そうなるとこれより少し良い条件で物件を探すことになります。
そういった物件の競合相手は学生や仕事のある所得が少し高い人たち。
生活保護とか障害持っている方に偏見を持っている、もしくはリスクを感じてしまうオーナーさんもいるので苦労するということはありますね。
難しい仕組みだなということは思いました。
賃貸経営の視点から見る“生活保護”
滞納もなく安定した収入を確保できる
――例えばご相談にこられる方で、初期費用の工面が難しい方にはどのように支援されていますか?
初期費用の用意できないほどの生活水準の場合は生活保護を使えるケースが多いです。
ご本人が制度の利用を拒否されるケースもあるので、ご本人と場合によっては行政や家族とコミュニケーションをとりながら決定します。
お家がない状態で半年いるのより、一度制度を利用して働いたほうが効率的ではないでしょうか。
――生活保護の利用が決まった時、候補となる物件は少ないのでしょうか。
生活保護NGな物件がある一方で、実は生活保護OKの物件も多いです。
逆に生活保護を受けていない人で低所得な人の方が難しいこともあります。
- 貯金100万・収入0円
- 貯金30万円・収入6万円/月(障害年金)
という方の物件探しは結構大変ですね。
後者の方の場合、生活費は6万しかないので生活保護を利用することになります。
“これから生活保護を申請する”場合だと大家さんはこわがりますよね。
「本当に大丈夫?」みたいな。
すでに所有しているアパートの中で生保の方を受けて入れている方であれば、慣れているので大丈夫ですが。
――確かに生活保護となりますと、安定して定期的に一か月ごとに定額できちんと入ってきますよね。
そうなんです。
今では「代理納付」という仕組みがあります。
ご本人にお渡ししてご本人から大家さんではなく、役所が大家さんに直接家賃を支払い出来るというものです。
代理納付に対応している自治体の場合、確実に滞納はなく大家さんの安心も以前より一層高まっています。
生活保護と分譲マンションは相性がいい
――実際にどのような物件で生活保護を利用されている方を受け入れていらっしゃいますか?
実は投資目的の分譲マンションへの入居もあります。
一棟ものだと他の入居者を考慮して決定しなければいけませんが、分譲マンションの場合はその必要がありません。
また分譲マンションの中には外国資本の物件もあり、多くはないですが更新料を徴収しないオーナーもいらっしゃいます。
簡単な話「居住者が代理納付を受けていれば収入ゼロは絶対にない」ということになります。
生活保護を利用して生活のベースをつくる
――住まいのご相談に来られる方はどのような状況にある方がいらっしゃいますか。
所得の水準が著しく低いので住宅を見つけられないということで、
生活保護の方、またはそれに近い生活状況の方が圧倒的に多いです。
例えば毎月15.6万円ぐらい収入があれば、ワーキングプアではありますがアパートを見つけられないことはありません。
アパート探しで苦労するという方は
- 仕事をしていない
- 生活保護を受けている
- 今の住居を出なければいけない状況にある
- 一時的に所得が少なくなる
という方が多くなってきます。
なので“生活を支える”ということでは生活保護の利用が大切。
それから住まいの基盤づくりとして「住まい」の話になることが多いです
インクルーシブな社会実現のために
大家・店子の考え方で生活保護の受け入れへ
――他の不動産会社より丁寧にご希望をきいて物件を探されているので、“ご本人にあった仲介”に特化していらっしゃいますね。
ですが紹介している人数は多い訳ではありません。
また“生活保護を受けていらっしゃる方や課題を抱えた方でもいい”と言ってくれる大家さんが圧倒的に少ないので難しいです。
多くは過去の経験に原因があるようです。
――一回でも嫌な思いをされたご経験があると悪い印象が強く残ってしまうんですね。
例えば20人の生活保護受給者の入居のある物件で、19人問題が無くても1人滞納が30万あると絶対もうやだなと思うじゃないですか。
逆に古い考え方ではありますが「大家・店子」みたいな関係を持ってくれている方もいます。
「大家」と「店子」日本の住宅の賃貸契約は、江戸時代に長屋を貸し出すことからスタートしました。
当時の大家さんは店子(借家人)から家賃の回収だけではなく、家族のようにいろいろ面倒をみた歴史があります。
そこから「大家といえば親も同然、店子と言えば子も同然」という言葉が生まれました。
ある物件の大家さんがおばあちゃんから娘さんにオーナーチェンジ。
この娘さんが生活保護をこれからは入れないと判断したので、うちから生活保護の方をご紹介できませんでした。
それを聞いたおばあちゃんが家族会議を開いて「大家とは」と娘さんに説いてくれて、初めて入居できたケースです。
住宅ニーズのある人と空室をマッチング
大手の不動産会社がとっているのは業務のマニュアル化。
「まちの不動産」のような柔軟性はないので、かなりの割合の方がこの仕組みからこぼれてしまうことになります。
また今後の日本では
- 少子高齢化の加速
≒単身高齢者の増加 - 総人口の減少
≒入居者の総数の減少(住宅供給過多)
の問題が深刻化していきます。
網目からこぼれる人が増えていくことが予想されるので、今からたくさんある「空き家・空室」と「入れていない人」のマッチングが進んでほしいです。
僕らも地べたで頑張ってやっていきますが、そこを何か仕組みでできたらいいなと思います。
互助的な住宅保証の仕組みづくり
――生活困窮者の人たちの支援の担い手についてどのように考えていらっしゃいますか?
保証会社の出現で家族的なものに頼らない流れになりましたが、合理的に市場でまかなうものに頼るのか。
保険の場合、利益が上がらない
- 所得が低い人
- 生活に困窮している人
は対象から外れます。
制度や仕組みからこぼれる方への支援を国・自治体それともNPOがやるのかという「担い手の問題」です。
私たちNPOの運営のように寄付で行うのも違う気がします。
もしかしたら、
- 大家さんによる保証
- 「互助」(※)的な保険
をつくるという方法もあるかもしれません。
※「互助」…市民や当事者どうしで助け合うこと。
単身高齢者も今後増えていくので、住宅業界でも何か独自の仕組みづくりが求められるのだと思います。
所有物件の1割でも社会貢献に
――不動産投資をみていく方はかなり意欲的に活動される方もいますね。
確かに低所得者向けの住居は実入りは少ないですが
利益率だけではない社会貢献的な考え方ももう少し広がってほしいと思います。
同じ100部屋持っていても10部屋は社会貢献的なものに使おうかなというオーナーさんが増えたら嬉しいです。
そういう社会のほうがいい社会ですよね。
トチカム編集者後記
昨今、少子高齢化や人口減少で空き家・空室問題が深刻化しています。
まさに今後は「住宅供給過多」の時代。
一方で様々な事情で生活に困窮している方は住宅が見つからず日々苦悩しています。
彼らの受け入れは利益としては大きく上がることはありませんが、賃貸住宅経営で重要なのは「満室経営」「利回り」です。
生活保護を受けている方であれば、滞納もなく家賃保証もあります。
既に賃貸物件を所有している方で
- 空室が出て困っている
- もやいさんの活動に興味がある
という方はこちらにご連絡してみてください。
さまざまなご事情で住まいが無く困っている方への物件の提供が“充実した経営”と“社会貢献”につながります。
事務局:03-6265-0363(火曜日~金曜日14:00~17:00)
住まい結び事業専用メールアドレス:
sumai-musubi@npomoyai.or.jp
法人名 | 特定非営利活動法人自立生活サポートセンター・もやい (認定NPO) |
---|---|
代表者 | 理事長 大西連 |
設立日 | 2001年5月17日 |
活動内容 | ⑴生活相談・支援事業 ⑵入居支援事業 ⑶交流事業 ⑷広報・啓蒙活動 |
HP | https://www.npomoyai.or.jp/ |
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