~日本の大問題「空き家問題」を解決したい!
【NPO法人 空家・空地管理センター】大野収也さん
当サイト(トチカム)を運営する中で度々目にしてきた空き家問題。
今回は空き家問題について勉強させてもらうため、NPO法人 空家・空地管理センター・大野収也さんにお話を伺ってきました。
- 少子高齢化
- 家族・地域社会の問題
- 法整備の遅れ
などが複雑に絡み合った空き家問題は、まさに「日本の縮図」。
聞けば聞くほど「根本的な解決は難しいのではないか」と思わざるを得ませんでした。
そんな空き家問題に対して、スタッフの皆さんは「日本のためになんとかしなくては!」と、熱い想いで取り組んでおられます。
誰もが当事者になりうるのが空き家問題の怖いところ。
自宅を所有している人は一読の価値アリです。
【空き家問題の現状・原因】15年後、日本の家の3分の1が空き家になる!?
▲代表の上田真一氏の著書『あなたの空き家問題』。書籍・テレビなど積極的にメディアに露出し、空き家問題を訴えている。
Q.そもそも空き家問題って何なのでしょうか?
大野さん:「1年以上人が住んでいない・使われていない家」というのが空き家の定義(国土交通省)なんですけど、この空き家が全国で820万戸(2013年時点)あるんですね。
それ以降の統計はまだ出ていないのですが、
- 2018年:1,000万戸以上
⇒日本の家の7戸に1戸が空き家 - 2033年:2,150万戸
⇒日本の家の3戸に1戸が空き家
になると予測されています。
【出典】
実績値(2018年以前):総務省「平成25年住宅・土地統計調査」
予測値(2018年以降):野村総合研究所「ニュースリリース(2016年06月07日)」を元に空家・空地管理センター作成
トチカム編集部:30%を超えるんですか、、、放置されている空き家が多くなると、何が問題になってくるのですか?
大野さん:いろいろ問題があるのですが、たとえば、
- 家屋が老朽化して倒壊してしまう
- 放火・不法投棄の標的にされてしまう
- 景観・治安の悪化につながる
というのが代表的ですね。
トチカム編集部:たしかに隣家が空き家になると、ちょっと恐いですね。
大野さん:そうなんですよ。誰もいない隣家から物音がすると「不審者がいるんじゃないか」と不安になりますよね。
「草木が伸び放題になって、自分の家にまで侵入してきた…」というのも、よくあります。
あと、ある地域の空き家率が30%を超えてしまうと、
- インフラ(道路・水道・電気など)が維持できなくなる
- 商業施設、病院、銀行などが撤退してしまう
というように、人が住む場所として機能しなくなると言われています。
Q.空き屋問題の原因を教えてください
大野さん:根本的な原因は2つあります。
- 少子高齢化
- 新築住宅の増加
一番多いのが、ご高齢になった方が老人ホームに入ったり子供の家に転居した結果、自宅が空き家になるというケースです。
しかも、
- 家屋の解体数:約50万戸/年(※1)
- 新築住宅の供給数:約100万戸/年(※2)
(※1・2)空家・空地管理センター「増え続ける空き家~2つの空き家問題~」
という状況なので、空き家は増える一方なんです。
今後さらに少子高齢化が進めば、もっと増えていくでしょうね。
トチカム編集部:他に原因はありますか?
大野さん:法律の問題もあります。
たとえば、再建築不可(建て替え不可)になっている土地は、
- 建て替えて活用(住む・人に貸すなど)できない
- 解体して更地にすると、固定資産税が増える(約6倍)ため、解体もできない
など、放置せざるを得なくなるんです。
このような活用したくてもできない土地は、日本全国にたくさんあります。
トチカム編集部:所有者の方は、放置したくてしているわけではないのですね。
大野さん:そうなんです。
あと、相続した時の登記は「任意」なので、名義変更しなくても家を相続できてしまいます。これも空き家増加の原因になっているでしょうね。
たとえば空き家の名義が曽祖父になっていて、いざ活用・売却しようとした時には相続人200人の同意を得なくてはならないなんてケースもあります。
トチカム編集部:200人!
大野さん:稀なケースですけど、本当にあるんです。
相続人全員の同意を得る必要があるので、結局手付かずのまま空き家として残ってしまうんですよ。
Q.空き家所有者側の問題はあるのですか?
大野さん:問題と言って良いのか分かりませんが、実家を売却・解体するのに抵抗を感じる方は多いですね。
実家は小さい頃の思い出が詰まった場所ですし、子供たちにとっては「博物館」のようなものなので、簡単に壊せないんです。
実際「親父はこの場所に座って、いつもテレビを見ていたな…」という相談者のお話を聞いていると、泣けてきます。
トチカム編集部:簡単に「壊して売りましょう!」とは言えないですね。
大野さん:両親がご存命ならまだしも、お亡くなりになっていて遺言も遺しておられない場合は、余計に抵抗を感じられるようです。
先祖代々の家なら「自分の代で壊すわけにはいかない」という義務感もありますしね。
遺言に「家を壊して自分たちのために有効活用してほしい」とでも書かれてたら、話は早いのですが。
【空家・空地管理センターの取り組み】些細なことでも相談してほしい!
▲空家・空家管理センターのサービス内容について説明する大野さん
Q.空家・空地管理センターさんのサービス内容を教えてください
大野さん:簡単に言うと「空き家で困っている方の総合窓口」です。
まずはわれわれに相談していただいて、
- 売る
- 貸す
- 壊す
- 管理する
- 直す
この5つの中から、一番良い方法を一緒に考えていくという使い方をしていただいています。
トチカム編集部:管理だけではないのですね。
大野さん:「管理」はあくまで選択肢の1つです。
今後の活用方法(方向性)が決まっておらず、
- 近隣に迷惑をかけたくない
- 家屋の急速な劣化を防ぎたい
という方にオススメします。
まずはお客様の意向をお聞きして、5つの中からベストな選択肢を提案する形ですね。
トチカム編集部:そもそも空き家って、売ったりできるのですか?
大野さん:正直、簡単ではないです。
「この家は売れません」と不動産会社に⾔われた⽅が相談に来られるケースも多いですね。
不動産会社に依頼すれば売れるまで管理してくれますから、「普通に売れる」物件のご相談は少ないです。
トチカム編集部:貸すことはできるのですか?
大野さん:放置していた空き家を人に貸すには、それなりに初期投資が必要になります。
「そこまでは出せない…」という方がほとんどなので、結果的に売却に流れるケースが多いです。
トチカム編集部:やっぱり、空き家の活用って難しいのですね。
⼤野さん:そうですね。ただ「活用できない不動産は無い」とわれわれは考えているんです。
希望通りの活用が難しくても、何かしら活用方法はあるので、ご相談者と一緒に根気強く解決策を探っています。
協⼒会社さん(不動産会社)には、かなり良心的に対応してもらっていますね。
Q.どのような方からの相談が多いですか?
大野さん:ご高齢者からの相談が圧倒的に多いですね。
相談のきっかけとしては、
- 空き家を相続した
- 施設(老人ホームなど)に入居したので、家が空き家になる
という方が多いです。この2つで約50%を占めます。
【出典】空家・空地管理センター実績
トチカム編集部:空き屋のお隣さんからの相談もあるのですか?
大野さん:あります。ただ、空き家の個人情報を勝手に取得することはできないので、
- お隣さんとして今できることをお伝えする
- 役所の相談窓口などへ連絡していただく
といった対応に限られます。
- 管理物件に立てている看板(連絡先などを掲載)
- 自治体から空き家所有者へ送られる通知に同封した案内
といったメディアを通じて、お問い合わせいただくことも多いです。
トチカム編集部:たくさん依頼が来そうですね。
大野さん:そうですね。「空き家に住み着いたネコをどうにかしてほしい」というお電話をいただくこともありますし(笑)。
Q.空家・空地管理センターさんに相談するメリットを教えてください。
大野さん:当センターを利用いただくメリットは、大きく分けて次の3つです。
- 空き家について、第三者の意見が聞ける
- 遠隔地の空き家を安価で管理できる
- 「空家空地管理士」資格(※3)を有した者に対応してもらえる
(※3)空家・空地管理センターが創設した資格。空家・空地の管理実務、法律・税制などの知識を有した人に付与される。
特に1点目の、NPO法人として客観的な意見をお伝えできるというのは大きな強みです。
トチカム編集部:具体的に教えてください。
大野さん:たとえば、次のような不安をお持ちの方が、よく相談に来られます。
- 「空き家の解体費⽤の相場が分からない… この金額は妥当なのでしょうか?」
- 「不動産会社に相談したら、うまく言いくるめられそう…」
そこで、「○○という事情があるので、△△円という見積りになっているんです」とお伝えすると「NPOが言ってるんだから」と納得されるんですね。
特に不動産取引に縁のなかった人にとっては、当センターの利用価値は高いと思います。
トチカム編集部:素人からすれば、不動産って難しいですもんね。
大野さん:そうですね。特に相続については、降って湧いたように問題が出てくるんです。
たとえば遺言を残さず親が亡くなって、実家の処理方法を兄弟2人で話し合うとします。
この2人のあいだで次のように意見が分かれると、解決はほぼ不可能です。
- 兄:親⽗は『家を残してほしい』と思っていたはずだ
- 弟:親⽗は『家を売って、兄弟で均等にわけてほしい』と思っている
お二人とも“そう思っていたはず”と、親の気持ちを推測するほかないので、亡くなられた親にしか「正解」は分かりません。
話はどこまで行っても平行線です。
そういった問題にも、根気強く時間をかけて対応させていただきます。
Q.「管理」のメニューについて、詳しく教えていただけますか?
大野さん:当センターが提供している「管理」のメニューは、次の2つです。
- 100円管理
- しっかり管理
<100円管理>のサービス内容
- 住む予定はない
- 将来的に解体を考えている
という方に提案しているのが「100円管理」で、月額100円で最低限の管理サービスを提供しています。
- 家の外からの目視チェック
- 近隣住民からのクレーム一次対応
- 巡回の報告
- 看板(管理物件である旨を記載)の設置
先ほど申し上げた「活用の難しい家・土地」をお持ちの方にもオススメです。
<しっかり管理>のサービス内容
- 将来的に自分で住みたい or 人に貸したい
- 家屋を現状維持したい
このような方には、しっかり管理をオススメしています。
名前のとおり、100円管理よりもしっかりした管理サービスです。
「しっかり管理」のサービス内容 | ||
---|---|---|
①窓・ドア・ふすまの通気・換気 | ②雨漏り点検(目視) | ③水道の通水(1分間) |
④室内・家屋の目視点検 | ⑤庭木の点検 | ⑥ポストの確認 |
⑦庭のごみ処理 | ⑧近隣挨拶 | ⑨巡回の報告 |
⑩近隣からのクレーム対応 | ⑪看板設置(管理物件である旨を記載) |
料金は管理の頻度に合わせて、3種類あります。
- 月1回:4,000円
- 月2回:7,500円
- 月4回:15,000円
積極的にテレビ出演されている意図はあるのでしょうか?
▲空き家問題を周知するため、積極的にテレビ出演する代表・上田真一氏
大野さん:第一に、空き家所有者はご高齢者が多いので、インターネットよりテレビの方が伝わりやすいからですね。
次に、所有者はわざと空き家を放置しているわけではないということを、お伝えしたいんですよ。
現状だと、「放置空き家所有者=悪者」と見えてしまう報道が多いです。
でも本当は、空き家所有者も、どうしたらいいか分からずに、悩んでらっしゃる方がほとんどなんです。
トチカム編集部:先ほどのお話にあったように、社会の仕組みが空き家をつくっているという側面もありますもんね。
大野さん:おっしゃる通りです。
ですので「放置空き家所有者=悪者」という伝え方をされそうなお話の取材などは、お断りしています。
【空き家問題への思い】日本のために解決しなくてはいけない!
Q.「空き家問題」の解決に向けて、オーナーさんができることはありますか?
大野さん:「空き家=手の打ちようがない」と思わないで欲しいですね。
先ほど言ったように、空き家問題は次の3つの原因があります。
- 少子高齢化問題
- 新築供給の増加
- 現行の法律の矛盾
オーナーさん1人ではどうにもならない、根本的な解決が難しい社会問題です。
でも一人ひとりのオーナーさんにとっての解決策は必ずあります。
トチカム編集部:空き家でお困りの方は、些細なことでも良いので、空家・空地管理センターさんに相談してほしいですね。
大野さん:「親世代=空き家を残す側」ができることもあります。
- この家をどうしたいか?を明確に伝えておく
- 相続前に、きちんと登記をしておく
など、遺言書までとは言いませんので、親の考え・想いを明確に書き留めて、子ども世代に問題を残さないよう生前に対策してください。
先ほど申し上げたとおり、親の意思をきちんと伝えていないと、兄弟が不仲になることもよくあります。
「空き家問題=家族の問題」でもあるんです。
トチカム編集部:空き家問題は根が深いですね。
大野さん:あとは、地域社会の問題でもありますね。
昔ながらの人間関係が生きていれば、
- あの家は空き家になったけど、大丈夫かな?
- 草がはみ出ているから、刈っておいた方がよさそう
というように、地域全体で空き家の面倒を見れます。
でも今は「お隣の家=外国」という感覚の人が多いでしょう。下手に気を使うと、逆にトラブルになりかねません。
近隣の人も当事者意識を持ってほしいですね。
Q.「空き家問題を解決したい!」という思いはどこから来るのでしょうか?
▲情熱を持って、空き家問題に取り組む大野さん
大野さん:セミナーで日本全国を回っていると肌で感じるのですが、空き家で困っている人って本当にたくさんいるんです。
空き家所有者の生の声を聞いたり、電話でも涙ながらの相談を受けたり、、、
少し恥ずかしいのですが、やはり使命感のような気持ちは自然と湧き出てきます。
トチカム編集部:そのような気持ちがないと、出来ないと思います。
大野さん:先ほどお話しましたが、日本の空き家問題は、
- 2033年には、日本全体の空き家率が30%を超えると予測されている
- ある地域の空き家率が30%を超えると、人が住む場所としての体をなさない
という状況。
要するに、日本が住む場所として機能しなくなりつつあるということです。
日本のことを憂うと、誰かが解決すべき問題だと思うんです。
トチカム編集部:日本を変えてください。
大野さん:そういう使命感は、代表の上田も持っていると思いますし、自治体の方も危機感を持っている方はいます。
熱い想いを持っている方たちと仕事ができるのが、一番のモチベーションです。
Q.今年、一番力を入れていきたいことは何ですか?
大野さん:今年は草の根運動を展開していきたいです。
昨年までは、どちらかと言うと、
- 自治体と一緒に啓発活動
- メディアへの出演
というように、空き家問題を「大枠で啓発」していく活動が多かったんです。
今年は⾃治会・町内会など、もっと現場に近いところで空き家問題をアピールしていけたらと考えています。
トチカム編集部:具体的に動いているお話はありますか?
大野さん:たとえば昨年度は、東京都の補助金で空き家問題のDVDを作らせていただきました。
われわれが足を運べない自治体さんなどに、空き家問題の現状・解決策を発信していければと考えております。
現場の声が行政に伝わるような流れをつくっていきたいです。
トチカム編集部:本日は貴重なお話を、ありがとうございました!
「空き家問題」解決への第一歩は、一人ひとりが問題意識を持つこと
空き家問題についてゼロからレクチャーいただいた今回のインタビュー。
「空き家問題は、解決不可能なのではないか?」というのが、正直な感想でした。
日本社会の矛盾が集まった、非常に根の深い問題です。
そんな中「一人ひとりに問題意識を持ってもらうことが、解決の第一歩」と大野さんは語ります。
空き家問題の現状を知って、「このままではいけない」と考える人が増えれば、行政を動かす力になるはず。
「草の根運動をやりたい」という大野さんの言葉も、そういった想いの現れだと思います。
誰もが当事者になりうるのが、空き家問題。
まずは、自宅を持っている方は、
- 自分が亡くなったあと、家をどうしてほしいか遺言書を遺しておく
- 相続する前に、忘れずに登記をしておく
など、出来ることからはじめてください。
法人情報詳細
法人名 | 特定非営利活動法人 空家・空地管理センター |
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設立 | 2013年7月 |
代表理事 | 上田 真一 |
事業内容 | ①空き家・空地の管理 ②空き家・空地に関する調査・データ公表 ③空き家・空地の活用に関するコンサルティング |
HP | https://www.akiya-akichi.or.jp/ |
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