不動産鑑定士とは?
~業務内容と評価の種類を解説~
今回の記事は不動産鑑定士でありながら不動産投資も実践されている「たいちゃん」氏に寄稿いただきました。
テーマは「不動産鑑定士の業務内容と評価の種類について」。
深く知らない方が多い専門職であるかもしれませんが、不動産鑑定士による不動産鑑定書のおかげでトラブルを未然に防ぐことができます。
本記事で
- 不動産鑑定士とは・業務内容
- 不動産鑑定が必要になるケースは?
- 不動産鑑定士に依頼する方法
についてご説明いただきました。
相続などで突然不動産を所有・売買する可能性は誰でもあります。
不動産所有者・投資家・法人様だけでなく、ぜひ将来の備えとしてご一読ください。
たいちゃん氏
不動産鑑定士・宅地建物取引士・不動産投資家
■不動産業界歴:約20年
■実績:不動産評価件数約1,000件超
■不動産コンサル件数:約300人超
数百万円~数十億円までの幅広い価格帯の不動産を仲介している。
ブログ「たいちゃん不動産」で、 体験・経験に基づいた不動産売買、不動産投資情報を発信中。
ブログ:https://taichan1188.com
Twitter:@taichan1188
はじめまして、不動産鑑定士の「たいちゃん」です。
皆さんは不動産鑑定士ってご存知ですか?
おそらく知らない人が多いと思います。
「不動産」とついているから不動産絡みの仕事をしている人かな?ぐらいしか思わないですよね。
日ごろ仕事していても、土地家屋調査士や宅地建物取引士の仕事内容とよく間違われます。
そこで、まずは“不動産鑑定士って何する人なのか”について簡単に説明しますね。
不動産鑑定士ってなに?
「不動産鑑定士」=不動産の価値を評価する人
簡単に一言でいうと、不動産鑑定士は不動産を評価する人です。
「開運!なんでも鑑定団」という番組をイメージしてみてください。
番組内で骨董品を鑑定士の方が、いくらになるか査定。
その不動産版が不動産鑑定士だとイメージしていただくとわかりやすいと思います。
不動産鑑定士は国家資格ですが、なぜ国家資格として不動産鑑定士が必要なのでしょうか。
それは不動産の値段は公表されていないからです。
例えば、スーパーでみかんを買う時も値札がついていて、大体の相場も分かります。
しかし、家の前に値札は貼られていないので値段を知ることはできません。
同じ仕様・造りの家だったとしても東京都内の戸建と地方の田舎の戸建では値段が大きく変わってくるので、一般的に判断することは難しいです。
不動産の価格不明で困る事3つ
上述したように不動産には値段がついていないために、困る場面があります。
(1)道路の拡幅工事
道路の拡幅工事のために
- 土地を買収したいがいくらで購入したらいいのか
- 購入資金は国民から集めた税金だから無駄使いできない…
など、値段がわからないと拡幅工事の進みが悪くなってしまいます。
(2)相続した財産について兄弟で揉めている場合
親が亡くなって、不動産と現金を兄弟で相続したので平等に分割したい場合に問題になります。
相続する不動産にいくらの価値があるか分からない内は円滑に分割することも難しいです。
(3)税務署対策
- 関連会社間で不動産を売買したいがいくらで取引したらいいのか…
- 適当に決めて売買後に税務署から“利益供与”とみなされ追徴課税されるのは嫌…
- 適正な金額で売買したい
上記のケースでは、客観的に適正に不動産を評価できる人が必要になってきます。
客観的に適正に不動産を評価できる資格をもった人が「不動産鑑定士」です。
不動産鑑定士の仕事内容【メイン・派生業務】
不動産鑑定士は不動産の評価をする人というのはわかりましたね。
次に、具体的に日頃している仕事内容と絡めて主な仕事を紹介していきます。
不動産鑑定士の主な業務は「鑑定評価書の作成」
不動産鑑定士のメイン業務は、不動産を鑑定評価して価格(又は賃料)を判定した鑑定評価書の作成です。
不動産を鑑定評価の後、価格決定までの過程や計算を鑑定評価書(※)という書類にまとめていきます。
※ページ数は数十頁から、物件によっては資料と合わせて百数十頁になる場合もある。
鑑定評価書を作成する場面は、大きく分けて
- 公的評価
- 民間評価
の2つの場面になります。
それぞれどういった評価なのか、詳しくみていきましょう。
①公的評価
⑴地価公示標準地価格、地価調査基準地価格
年2回、新聞で発表される「不動産の土地価格」の鑑定評価しているのが不動産鑑定士です。
不動産の土地価格は
- 各市町村内で代表的な土地(標準的な土地)を決定
- その地域で標準的な土地価格を定期的に公表する
ことを目的に行われています。
□基準日(※鑑定・価格決定の基準となる日):1月1日
□発表日:3月後半
■地価調査基準地価格…
□基準日:7月1日
□発表日:9月後半
(引用:『標準地・基準地検索システム』国土交通省)
「地価公示標準地価格」や「地価調査基準地価格」を見ると、その地域の地価や過去からの推移が分かります。
⑵路線価
日本国内の道路には土地の価格を記した路線価図が公表されており、これを「路線価」と言います。
路線価には「相続税路線価」と「固定資産税路線価」の2つがあります。
それぞれ
- 「相続税路線価」
…相続した不動産の相続税評価額を計算する - 「固定資産税路線価」
…固定資産税評価額を計算する
ために公表されています。
不動産鑑定士は「路線価」がある地域内の代表的な標準地の鑑定評価を行い標準地の価格を算定。
標準地の価格を基に
- 相続税⇒国税局
- 固定資産税⇒各市町村
が各路線の路線価を決めています
ちなみに、相続税路線価は時価の概ね80%程度。
固定資産税路線価は時価の概ね70%程度になるように決められています。
(参考:『財産評価基準書路線価図・評価倍率表』国税庁)
(参考:『全国地価マップ』一般財団法人 資産評価システム研究センター)
⑶国/県/市町村が不動産を購入、または資産を売却する場合
国や地方公共団体が不動産を購入・売却する場合に、不動産鑑定士による鑑定評価が行われています。
道路を新しく作るための土地買収・造成のためのお金に使われるのは「税金」です。
そのため、道路用地の買収価格は客観的に見て適正な価格でないといけません。
不動産鑑定評価書をもとに
- 買収:適正な土地価格を決める際に鑑定評価書が活用
- 売却:適正価格で売却
されています。
⑷競売
「売却基準価額(※)」を裁判所が決める際も、鑑定評価書が参考にされています。
※競売で不動産を入札する際の基準となる価額のこと。
②民間評価
⑴上場企業
上場している企業の保有不動産を売却する際に、鑑定評価を依頼される場合があります。
上場企業は株主への説明責任があるので、適正な価格を把握した上で売却する必要があります。
⑵投資法人、ファンドなど
J-REITなどの投資法人やファンドが不動産を取得する場合や保有期間中、一定期間ごとに投資家へ説明責任があります。
説明に際して不動産鑑定士による鑑定評価が義務づけられています。
【不動案鑑定士が鑑定する物件】
…投資法人やファンドが購入する収益物件
(例)
- オフィス
- 共同住宅
- ホテル
⑶裁判関係
裁判に絡んで弁護士、裁判所から鑑定評価書の依頼があります。
例えば
- 相続の財産分与について相続人間で争っているケース
⇒不動産の適正価格を知りたい - 賃料増減額請求訴訟など「賃料」で貸主と借主で争っているケース
⇒適正賃料を知りたい - 原告・被告で不動産の価格、賃料などで主張が違うケース
⇒裁判所より第三者鑑定として鑑定評価してもらいたい
などが該当します。
⑷会計関係
適正な時価で取引しないと税務署より追徴課税される場合があるため、取引前に鑑定評価書を依頼されることがあります。
例えば大家さん個人が法人を設立して、その法人へ不動産を売却、又は関連会社間で売買する場合で考えてみましょう。
実質的に同族や関連会社で不動産を売買する場合、利益供与や脱税行為をしていないか税務署から疑われます。
その場合に適正価格で取引することの証明が必要です。
事業承継で自社株を譲り渡す際も鑑定評価の依頼があります。(=「株価評価」)
資産内の不動産を相続税評価額より時価を低く評価できる場合、自社株の評価も下げることが可能です。
このような場合に、鑑定評価の依頼を受けることがあります。
⑸民間企業
民間企業から依頼されるケースで多いのは次のような場合です。
【保有不動産を売却する場合の目安を知りたい場合】
- 一般的な遊休地や保養所
- ゴルフ場
- ホテル
- 底地
など、一般の宅建業者さんが仲介で扱われなくて時価がわかりづらいときに依頼があります。
【デベロッパーが用地を買収する場合】
デベロッパーが地権者や隣接者へ用地交渉に行く際に、第三者の不動産鑑定士の鑑定評価があれば話がスムーズにいく場合があります。
鑑定評価書はあくまでも第三者の適正価格ですので、地権者の方も受け入れやすいのです。
【金融機関への説明資料に活用する場合】
金融機関に自社の資産状況を説明するために、鑑定評価をとる場合があります。
帳簿価格とは別に時価を開示して融資条件を良くしてもらうためです。
【リバースモーゲージのための担保評価をする場合】
「リバースモーゲージ」とは、家を担保にそこに住み続けながら金融機関等から融資を受ける制度です。
そして、死亡後に家が売却されて融資の一括返済にあてられます。
その際に家の担保価値を調べるために、金融機関等から鑑定評価の依頼があります。
このように、“ご自身が保有している不動産の価値を第三者に適正に主張したい”場合に役に立っています。
派生としてコンサルティング業務も行う
不動産鑑定士は派生業務として、コンサルティング業務も行っています。
【不動産鑑定士のコンサルティング業務一覧 (例)】
- 住宅購入アドバイス
住宅購入について立地、地域特性、住宅ローン、住宅購入の法律知識等についてアドバイス - 土地の有効活用の検討
土地の収益性が最も見込める有効活用方法について提案・助言 - 不動産投資の適格相談
投資用不動産を購入する際の収益性のチェック、空室リスク、出口アドバイス等 - 不動産賃貸事業の事業計画相談
賃料調査、IRR分析、NOI・NCF投資利回り分析、手残りキャッシュフロー計算等 - マンション・新築戸建住宅の販売分譲単価を調査したマーケットレポートの作成
新築分譲マンションや新築戸建分譲団地の計画時に、周辺の販売分譲単価、販売動向等についてマーケットレポートの作成 - 賃料相場・空室率を調査したマーケットレポートの作成など
新築賃貸マンションの計画にあたって、周辺地域の賃料相場・空室率等を調査したマーケットレポートの作成
不動産鑑定士への依頼方法
鑑定評価書の発行ができるのは「不動産鑑定士業者」だけ
不動産鑑定士の多くは不動産鑑定業者で働いていますが、資格を活かして
- 金融機関
- デベロッパー
- 投資法人
- 役所
等で活躍されている方もいます。
しかし鑑定評価書の発行ができるのは不動産鑑定業の登録をしている「不動産鑑定業者」だけです。
そのため、鑑定評価書が必要な場合は不動産鑑定業者へ依頼する必要があります。
そもそも不動産鑑定士と日頃、お付き合いのない人がほとんどだと思いますので、不動産鑑定士へのご相談の仕方についてお話しますね。
(1)知り合いの方を通じて依頼
不動産鑑定士への相談は、知り合いの方を通じて依頼されるケースが圧倒的に多いです。
税理士、弁護士、金融機関、宅建業者等を通じてのお問い合わせがほとんど。
不動産鑑定士としてもいきなり電話をされてきて相談を受けるよりも、誰かの紹介の方が安心して仕事を引き受けやすいです。
(2)各県の不動産鑑定士協会へ連絡
まったく不動産鑑定士と繋がりがない方もいらっしゃるかと思います。
実際に地方の県では人口数十万人に対して、不動産鑑定士は数十人しかいない県もあります。
お住いの市町村に不動産鑑定士がいない場合には、「○○県 不動産鑑定士協会(※)」で検索されてください。
※各都道府県に不動産鑑定士協会が配置。
協会に電話して事情を話した上で「不動産鑑定士を紹介してください」と伝えていただければ紹介してくれると思います。
身近な専門家としての「不動産鑑定士」
「不動産鑑定士」は、日ごろあまり耳にする機会が少ない専門職です。
不動産を鑑定評価する仕事がメインですが、上述した通りそれ以外にも様々な不動産に関するコンサルティングをしています。
そのため不動産で困ったことがある場合は、ぜひ不動産鑑定士に尋ねてみてください。
近くの宅建業者や銀行、税理士に相談するように身近な専門家として頼っていただければ嬉しく思います。
無料相談会も定期的に行っておりますので、不動産鑑定士協会のHPや市町村の市政だより・HP等を確認されてくださいね。
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